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たくよーさん
恋愛観察日記(乃凪と亜貴)
*茴香樹様へ捧ぐ、相互御礼小説
*パニパレ 乃凪→←亜貴+紺青
*えっちゃん目線から見た二人



〜〜〜〜〜

「こんにちは、依藤さん」

「乃凪先輩、こんにちは。風紀委員のお仕事ですか?」

「いや、たまたま通りかかっただけだよ。ついでだし、顔でも出していこうかと」


乙女受けする爽やかな笑顔を浮かべながら、先輩の乃凪範尚が至極優しげに言葉を紡ぐ。可愛くて優しくて、ちょっぴり男前な我が親友・依藤亜貴はそんな先輩の言葉を全て真に受けて純粋に納得したようだけど、私──紺青悦は決して騙されない。

“たまたま通りかかっただけ”

そう先輩は言うけれど、それは大きな間違いだ。
まず、一年生の教室は三階で三年生の教室は一階。更に風紀会議室は二階だ。
三年生である範尚先輩が、一年生の教室の前を用もなく“たまたま”通りかかることはまずあり得ない。意思を持ってこの廊下を通る、という選択肢以外は。

…まぁ、つまりはそういうことなのだ。

しかし、どうやら当事者である亜貴ちゃんは範尚先輩の想いには気が付いていないらしい。本当にたまたま偶然何の理由もなく、この教室を訪れたのだと。そう信じきった瞳で先輩を見上げているように見える。
範尚先輩が回りくどいのか、はたまた亜貴ちゃんがそういった状況に鈍いのか。
二人を取り巻くじれったさに、思わずため息がもれる。
私の推理では片や空回り、片や無自覚というところか。

戦況は一方通行。

恋する青年にもはや勝機は見えず、何だか可哀想だから先輩に飴でもあげにいこうかとスカートのポケットに手を伸ばした。


──そのときであった。


「あの、乃凪先輩!」

「うん?」

「こ、これ。良かったら食べてください…!!」


状況は一変。

はい、どうぞと亜貴ちゃんがポケットから差し出したのは、可愛くラッピングされた小さな袋。朝からずっと亜貴ちゃんから何か甘い良い匂いがすると思ったら。なるほど、お菓子の香りだったのか。
そんな彼女の言葉曰く、差し出した袋の中身は昨日たまたま作って、更にたまたま余ったクッキーなんだとか。
偶然の折り重なりによって完成にした、非常に丁寧に飾り付けられた手作りクッキー。

“たまたま”とは、なんて便利な言葉だろう。


自然と上目遣いになった亜貴ちゃんの顔は、まさに乙女そのもの。本人は無意識かもしれないが、これは誰がどう見ても明らかに。

…あれだ、うん。

私ともあろう愛の伝道師が、状況を読み違えていたなんて。肩に入っていた要らぬ力が、ため息と共に一気に抜け出ていく。



(何だ、私の心配って結局要らぬお節介じゃん)


端から見れば変わらなくても、当人たちの間では着実に確実に何かが変わっているようだ。それも、とても良い方向に。
控えめに攻める範尚先輩と、無自覚の恋を抱える亜貴ちゃん。ちぐはぐ噛み合っていない感情が、上手く合わさるのも時間の問題に違いない。
あまりの歩み寄り低速っぷりに若干もどかしさを感じはすれど、人の恋路を邪魔するやつは何とやら。これは当人たちの問題だから、私がでばがめをするのはきっと何か違うのだろう。仕方ない、今後の私は立派に傍観者を演じきってみせようじゃないか。



「ありがとう、依藤さん」


一人完結して見守る態勢に入った私の視界のその先。飛び込んできたのは、お礼を述べながらにっこりと笑った見た目爽やか好青年。その表情は陰りなく、至極純粋な感情で充ち満ちている。
そう、例えば、彼女の“たまたま”という言葉を額面通り受けとっていると考えられるほど、本当に純粋に。


…嗚呼、鈍さというのは時に罪。

彼らの想いが通じ合う日は、いったいいつ頃来るのやら。出来れば、私があまりのじれったさに痺れを切らして間に割り込んでしまうまでには来てほしいものである。いやもう本当切実に。
そんな新たな願いを胸中に抱えながら、私は本日三度目となるため息を盛大に吐き出した。


恋愛観察日記

(なんてスローなラブだろう!)




周りからみたナイあきのスローラブは随分と焦れったいに違いない。
えっちゃんはとても友達思いだと思います。きっとすぐに焦れて間に割って入って色々騒動を起こしそうな予感もするけど、とても良い子だと思います。
このお話は親愛なる茴香樹様へ捧げます。
相互御礼小説のつもりで書き上げましたが、それにしては延ばしに延ばしすぎたので、いつも仲良くしてくださっている感謝の品ということでどうでしょうか。駄目でしょうか。
これからも宜しくお願いします!


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