たくよーさん 先生と亜貴ちゃん(7年後) *真朱ルートBADエンドのさらにその後の設定 *ゲーム本編+7年後 *悲恋注意報 〜〜〜〜〜 「真朱先生、知ってますか?先生が私の初恋の人なんですよ」 そう言って楽しそうに笑いながら、俺の元教え子である依藤亜貴はグラスを傾ける。にぎやかな空間にとける、氷の崩れる音。少し酔っているのだろうか、その頬はほんのりと朱色に染まって見える。 「なんだ、依藤はもう酔ったのか?」 からかうような口調でたしなめる。笑いながらも、この胸を焦がすのは何か、焦燥にも似た感情。動揺を掻き消すようにひとくち、アルコールを喉奥へと流し込む。 アメジスト色の瞳と視線が合う度に、心音が不安定な鼓動を刻む。揺れては絡まる、複雑な男心。そんな不都合は、都合良く見えていないふりをして。グラスを傾け笑みを振り撒きあくまで冷静を装い、そして俺は平然を演じるのだ。今から7年前。そう、ちょうど彼女の担任だったあの頃のように。 「酔ってないです」 「いーや、完全に酔ってるだろ。顔だって赤いし…」 あやすような口調に、ますます膨れ上がる頬。駄々っ子のように嫌々と首を横に振る依藤をなだめるように、脇に置いてあった水をすすめる。どう見ても、お酒の飲み過ぎだ。久々の面子に会った懐かしさもあり、少し羽目を外してしまったのだろう。 それは他のやつらも同じのようで、見渡せばすっかり酔い潰れて横たわっている烏羽に紺青。唯一素面の白原は、どうやらトイレに行っているらしい。 最初は賑やかだった席が、依藤の沈黙で妙に静かな雰囲気に包まれる。その合間が何だか…。 (……気まずい) 「そ、そういえば、白原のやつ遅いな!?」 「……」 「依藤…?」 「私は、ずっと先生のことが好きでした」 高校生だったあの頃からずっと好きだった、と。そう告げたのは、少し震えた彼女の声。俺だけに向けられる真摯な眼差しが、今まで必死になって築き上げてきた心の壁を、いとも簡単に打ち崩した。 生徒と先生。 その間に埋められない溝があるのなら、いっそのこと芽生えた感情に気付かなければいい。 “不都合な真実からは目を逸らす” それが、当時の俺が出したシンプルな結論だった。 当時から彼女の気持ちには、一応ほんのりとは気付いていた。だけど、感情のままに流されて周りに依藤に迷惑をかけるわけにはいけなかったのだ。 (俺は彼女の先生だから) とにかく素知らぬ風に装って三年間、そうして俺は“先生”を演じきった。 守るべきは自分の気持ちよりも、生徒の未来。あの頃は、ずっとそう思っていた。 気持ちを隠し続けるこそが、彼女を守る最善の道だと信じていた。 けれど……。 (本当にそうだった?) 「本当は言わないつもりだったんですけど…」 「依藤」 「最後に、どうしてもけじめをつけたくて」 きっといま、俺はひどく情けない顔をしているのだろう。困ったような、泣きそうな顔で依藤が静かに笑う。 うっすらとアメジストを覆う水の膜。それでも自分では何も言わずに、ただただ、彼女の瞳を見つめるだけ。 俺はズルい大人だ。 (そう、今も昔も) 年齢を重ねる毎に、自然と上手く生きていくための術は身に付いてくる。うまい肉じゃがの作り方、二日酔いの対処法、同僚との浅く広い付き合い方。 (そして、自分を守る方法) たとえ傷付いたとしても、ただ真っ直ぐ誰かに向かい合おうとしていた子どもの頃。誰かに合わせながら、傷付きを避けることを覚えた大人になった俺。 闇雲に、がむしゃらに“いま”を生きていた頃。嘘をつくことばかりが上手くなっていく日々。 (いったい、どちらが幸せなのか?) 結局、俺は踏み込むことが怖かったんだ。現に、依藤が卒業したあとも俺は彼女に何一つ伝えられなかった。彼女に拒まれるのが怖くて、全てに見てみぬふりをしていた。守る対象は、いつだって俺自身。 小さな頃に思い描いた未来のように、ヒロインを守るヒーローのような俺はここには存在しない。 ただ、ここに居るのは、大人にも子どもにもなりきれなかったあの頃から、少しだけ大人になった俺。 彼女の想いに何の言葉もかけられなかった情けない一人の男だけ。 「先生。私、来月に結婚します」 そう言って柔らかく笑った依藤の頬を、一筋の涙が伝う。 あの頃も今も、真っ直ぐに俺を見つめる瞳。傷付くことを恐れ、踏み込むことを躊躇した。これが俺と君の交わり合わぬ想い末路。 涙はでない。 けれど無償に泣きたい気分なのは、きっとそれだけ依藤の存在が大きかったから。 届かぬ想いと、戻らぬ時間。 誰かの隣で幸せそうに笑う、彼女。 嗚呼、なんて苦しいハッピーエンドだろう。 不都合な真実 (気付いた頃には全て手遅れ) END * いぇーい妄想大暴走☆が全開な文章です。 とりあえず、設定付け足し。(ネタバレあり) ・記憶操作後、再び恋に落ちる2人 ・が、一切発展せずに早7年 ・亜貴ちゃんが白原辺りからプロポーズ受ける ・先生への気持ちを断ち切るために告白 そしてハッピーエンド!!って訳ですが、私と先生的にはハッピーじゃないです。でも個人的に不甲斐ない男は好きです。書き甲斐がある。 読破有難うございました! |