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void of...
不意に疲れきったように溜息を一つもらす姿を見ていた。
その隣に腰掛けて、特に会話するわけでもなく黙って前を見る。

『もしも、この世に二人しか存在しないとしたら何を願うだろう…』

遠くを眺めながら何気なく浮かんだ考えが頭の中を横切る。

この世界がどうやって生まれて、どうして毎日空の色が変化して、その毎日をどうにかして過ごしても、何の形も見えない。
見たいものは、形にはならない。
きっと、見れないものの方が多いのかもしれない。
そんな事をダラダラと考えながら前だけを見ていた時にふと思う。

『この世が二人だけの世界だとしたら』
その先を、考えた。
きっと、手探りするみたいに過ごす毎日の中で出会えた君に幸せになってほしいと願うかもしれない。
それ位、きっと君が大切だから。
あぁ、違うだろうか。
君、と言う名の自分を映す人に幸せを願うのだろうか。
例えば、それがただの自己満足だとしても。

ダラダラとした思考は、昔の記憶を引き連れてくる。
会話一つ生まれずに、隣同士座った空間に時間が流れる。
だけど、君は何も言わない。
君は、それで満足だと、昔言ってくれた。
何かを言葉にする事に戸惑っていたあの頃に。
そう、何か口にする度、何か胸を張って主張する度、それは違うと言われた時。
間違っている、と全てを返された時。
何が本当か、何が嘘か、全て嘘なのではないかと思い始めて疑い始めたあの頃。
ただ君だけが記憶の中でくっきりと浮かび上がる。
無理に言葉にしなくても良いと言ってくれた存在。
何を口にすれば良いのか模索しては時間だけが過ぎる日々を過ごして、後ろ向きに歩く事を覚えた時。
本当に願う事を嘘にしたくないから、隠してしまえば良いと思って暫らく経った頃。
そんな時に出会った君が、一言声をかけた。
「無理に言葉にしなくても大丈夫」
重く纏わり付いた鎖が砕けたような、そんな瞬間だった。

空が色を変えていく。
会話こそ無くても、隣に座る君は無言で何かを伝える。

『もしも ここで 一つだけ願いが叶うなら』

疲れた様に溜息をついた君に、今度は沢山の幸せが訪れる事を願ってしまうだろう。
多分、二人だけの世界でなくても、自分の姿を映してくれた君の元に、幸せが訪れる事を願う。
きっと、あの頃からずっと君だけがありのままの自分を映してくれた人だから。


end.




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あきゅろす。
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