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ふと、合った視線



「ほら、はよ書きいやー!」


放課後。
学校から解放される筈の時間。
なのに私はなぜか机に向かっている。
目の前には沢山の文字や数字が羅列された無駄にデカイA3サイズの紙二枚。
これは私が風邪をこじらせ休んだ昨日にやったらしい抜き打ちテスト。
嗚呼、病み上がりなのに放課後居残ってテストだなんて何てツイていないのだろう。
…しかも、誰もいない教室で担任とワンツーマン。

私の担任は、この濃い学校の中でも更に濃ゆいキャラとして有名な渡邊オサム(27)。
年の割に掴み所がない飄々とした性格の人物で、そのファッションセンスには誰もが脱帽する程(勿論悪い意味で)
よく声を張り上げて喋り、上手いことを言った生徒にはコケシを渡すという変な行動を取る。

そんな濃ゆい担任の視線がテストを開始してからずっと注がれている。
落ち着かない事この上ない。
問題を解こうとして途中で止まってしまったシャープペンの芯をカチカチと出す。
視線はそれすらも凝視し、集中が掻き消されてしまう。
カチカチと、シャープペンの芯を出す音と時間を刻む秒針の音が無機質に響く。
痺れを切らしたのか目端で壁に寄り掛かっていた人影が口を動かした。


「ほらほら、早うせなすぐ時間終わってまうでー!」
「…先生、黙ってて下さいうるさいです」
「なんやて?!先生頑張って生徒の応援しとるのに…」
「急かすのが応援と言いますか?」


伸びたシャープペンの芯先を突き出す。
それに担任は降参の意味である両手を上げたポーズを取り、スマンと小さく呟いた。


「後じっと見るのも止めて下さい、気が散ります」
「ん、ああ、分かったわ」

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上下に頭を振る。
理解を示した様子に伸びきったシャープペンの芯を元の長さに戻す。
テスト用紙に向き合えば先刻までの視線は感じられず、辺りに静寂が取り巻いた。
解放されてからは息詰まっていたのが嘘かの様に筆が進む。
やっと集中出来た私はそれが嬉しく、時間を忘れてテスト用紙と向き合う。

ふ、と顔を上げる。
時計を見るよりも先に視線が横に向く。
壁に寄り掛かっていた担任は、夕日を首だけを向けてぼんやりと眺めており、いつも見ていた締まりのない表情が失せていた。
不意に空を漂っていた視線がぶつかる。


「なんや?やっぱ先生に構ってもらいたい?」


不敵に吊り上がる口端。
茜掛かったその笑顔に心臓の音がやけに大きく脈打った。






ふと、合った視線
(本当は必然的に合ったのかも知れないけど)(ヤバイ、惚れたかも)

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あきゅろす。
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