広い世界の夢物語 2(サンジ視点) 「〜♪……♪〜♪〜〜」 歌が聴こえた。 そんな気がして目を覚ますと、マルロスの澄んだ歌声が静かに響いていた。 枕に頬を埋めて、じっと身動きもせずに聞き入る。 エルフの言葉なのか、マルロスが歌う詩の言葉は判らないから意味までは判らないけど、優しくて暖かい歌だ。 雨を思い起こす歌に、ゆっくりと目を閉じる。 しとしとと、静かに降り注ぐ雨を思い浮かべながら、マルロスの歌に耳を傾ける。 どれぐらいそうしていたのか、ふとマルロスの声が聞こえなくなったのに気付いて、ゆっくりと身体を起こす。 窓辺を見れば、月明かりに煌めくマルロスの黄金色の髪と、遠くを見ている横顔を見つける。 一枚の絵画のような、そんな神聖な雰囲気さえ漂う横顔を見つめながら、胸を締め付ける感情を持て余す。 この感情の名前を、おれは知っていた。 ずっと目を逸らしていたが、もう抑えきれない程に膨れ上がったこの感情は、今にも溢れ出してしまいそうで。 マルロスを見る度に、声を聞く度に際限なく膨れ上がるこの感情を、おれはただただ持て余していた。 切なげな眼差しで、月明かりを見上げるマルロスが何を想っているのか、誰を想っているのかは判らない。 ただ、どうしようもなく嫉妬の炎が胸を焦がす。 想いの届かない誰かではなく、おれだけを見て欲しい。 そんな黒い感情に、おれはゆっくりとベッドを下りる。 裸足の足に、石造りの床がひやりとして心地好かった。 [*前へ][次へ#] |