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広い世界の夢物語
ワインと昔話

軽く服を整えて、下ろしたままの黄金色の髪を揺らして男部屋から甲板に上がり、先を行くサンジの背中を追い掛ける。
昼間、巨大なイルカに遭遇したグランドラインも、今は静かで穏やかだ。
寝付けないのなら、ラウンジで少し飲もうと誘ってくれたサンジの優しさに、マルロスは微かに笑みを浮かべた。
サンジのさり気ない優しさは、何処か親友達に似ているなと思い、寂しさが胸を過った。

「ワインで良いか?」

「あぁ」

適当に座れば、目の前にワイングラスがテーブルに置かれ、サンジは冷蔵庫からチーズを取り出し一口大に切り分けて皿に並べる。

「赤だけど良いよな」

そう言って、新しいワインのコルクを抜いたサンジがグラスに赤いワインを注ぎ、マルロスはそれを見つめていた。
向かい側に腰を下ろし、軽くグラスを合わせてワインを口に含んで、マルロスは香り豊かなワインに口元を綻ばせる。
昔から、飲む酒と言えばワインか果実酒だったから、久し振りに口にしたワインに懐かしさにも似た気持ちになる。

「良いワインだな……香りも味も」

「だろ?おれのとっておき。どっかのクソ剣士にも判らねぇ場所に隠しておいたんだ」

子供のように笑って、サンジがチーズを摘まむ。




それからは、お互いに黙ったままグラスを傾けていた。
サンジは自分からマルロスに話すように切り出すのも、と考えていたし、マルロスもどう話し始めるかを迷っていた。
親友のことを口に出すことが、心の何処かで恐いと思っているせいもあり、話を始める言葉が浮かんでこない。
そんな自分を叱咤するように、頻繁にグラスを傾けるマルロスに、サンジが少し心配そうに口を開く。

「そんなハイペースで飲むと、潰れるぞ?」

「ん?あぁ、それは大丈夫。エルフは人の子のようには酔わないから、酔って正体をなくしたりはしないんだよ。個人差はあるけどね」

「へェ……エルフって確か、おれ達程、飯を食わなくても平気なんだよな?」

「そうだな……1週間くらいなら食べなくても平気かな。それに本当は、睡眠も必要ないんだよ。エルフは心だけを休ませることが出来るから、人の子のように眠らなくても特に問題はないんだ」

「へー、そりゃ便利だな」

感心したようなサンジに、マルロスは苦笑いにも似た笑みを浮かべ、チーズを一欠片摘まむ。
エルフの体質を便利だと言うのは、サンジが2人目だった。
かつて、同じような話をした時にサンジと同じように感心して便利だなと言った彼は、マルロスが初めて出逢った人の子だった。


 

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