[携帯モード] [URL送信]

広い世界の夢物語


「………マルロス?」

不意に掛けられた声に、マルロスがゆっくりと顔を上げる。
明かりのない船室は暗く、すぐ傍らに立つその姿も人の子には見えないだろうが、エルフの目にはしっかりと見えていた。
明るい金髪と特徴的な眉毛に、微かに鼻を擽る煙草の匂い。

「どうした?」

眉を寄せるサンジに、誤魔化すように頬を伝う涙を拭う。
ぎゅ、と小箱を握り、何でもないとマルロスは笑って見せたけれど、そんなマルロスにサンジは眉間の皺を深くした。
声もなく、一人静かに泣いていたマルロスにサンジが気付いたのは、ただの偶然でしかなかった。
夜中にふと目が覚め、何となく寝付けなくなって一服でもしてこようとしたら、暗がりに浮かぶ黄金色に気付いただけ。
泣いていたことを誤魔化すように笑うマルロスに、サンジは少し怒ったように眉間の皺を深くすれば、決まり悪そうに僅かに目を逸らす。

「なァ………マルロスの考えてることを全部話せとは言わねェが、抱え込みすぎんのはどうかと思うぜ?」

「……え?」

「だから、さ……何つうか、聞くだけならおれにも他の奴らにも出来んだから、たまには吐き出せよ」

気恥ずかしそうに、目を逸らして頬を指先で掻きながら言葉を紡ぐサンジに、マルロスはきょとんとしたような表情を浮かべた。
長い金色の睫毛を瞬かせ、黙ってサンジの顔を見つめていたマルロスは、逸らしていた目線を戻したサンジに頬を緩ませる。

「あぁ、そうだな……昔、同じようなことを言われたよ……真面目なのは良いが、何でも自分の内に溜め込むのは私の悪い癖だ、と」

「確かに、判る気がするな。マルロスは真面目過ぎるぐらいみたいだし」

くくっ、と喉の奥で笑いを堪えるサンジにマルロスは苦笑を浮かべ、握ったままだった手を開いて小箱を見つめる。
親友の形見が納められた小さな箱は、蒼い滑らかなビロードに覆われている。
華美な装飾ではなく、箱の縁に金で細やかで繊細な細工が施されていて、それが逆にかつてを思い起こさせる。
マルロスの手の中の小箱が、手の技に長けたノルドール族の手によるものだと判るから、懐かしきあの日々を思い出す。

「それ、綺麗な箱だな」

「……親友の形見だよ……かつて私が贈ったブローチと髪留めがこれに入れられて、目を覚ました私の傍らにあったんだ」

「………マルロスの親友ってどんなだったんだ?」

「話すと、長くなる……彼らとは私が幼い頃からの付き合いだし、一言やそこらでは全部を話せない」

はにかんだように笑い、鮮やかな蒼いビロードと細工の小箱を柔らかい布袋に収め、紐を締めてベルトに結ぶ。
なくさないよう、彼らとの記憶を片時も忘れないようにと、常に肌身離さず持っているのだ。

 

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!