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広い世界の夢物語


そこで唐突に目が覚めた。
波音に合わせて揺れる船室で、マルロスは闇を見つめる。
不意に夢の小路から戻され、現実との境が判らなかった。
ただ、頬を濡らす涙に気付き、ハンモックの上に身体を起こし膝を抱き寄せる。
もう二度と戻らない日々は、今も胸を締め付ける。
懐かしき友の声が、今でも耳から離れない。
息が出来なくなる程の、胸を引き裂くような悲しみの渦。
胸に抱いていた小箱に収められた、もう逢うことの叶わない親友の形見をきつく抱き締め、ただ静かに涙を流す。



彼らと過ごす時間が、日々の何でもない時間が何にも変えられない程愛しくて、そんな時間がいつまでも続くと信じていた。
いつか別れる日が来ても、いつかまた逢えると信じていた。
たとえ死に別れても、エルフの魂は至福の地にあるマンドスの館と呼ばれるそこへと集まることを、また逢えることを知っていたから。
だけど、自分にだけ与えられた別れの選択に言葉もなく泣き崩れたあの瞬間を、マルロスは今もよく覚えている。
いつまでも一緒だと、そう信じてきた親友との別れに涙も嘆きの言葉もなく、ただ彼らが生きて欲しいと望んだから選んだ。
彼らと同じ時間を生きられないのならば、自分だけが生きる意味などない。
そう思いもしたけれど、彼らが生きろと言うから言われるままに選んだけれど、それで本当に良かったのか判らない。


 

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