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広い世界の夢物語


「ここに居たのか」

不意に割り込んできた声に、歌と笛が止まる。
2人が顔を上げれば、柔らかく波打つ金の髪を木漏れ日に煌めかせながら、一人の青年が姿を現す。

「グロールフィンデル」

顔を綻ばせれば、グロールフィンデルと呼ばれた青年も頬を緩め、並んで座る2人の前に腰を下ろす。
幼い頃から、3人はいつも一緒の時間を過ごしてきた。
まるで兄弟のような、そんな親友同士の関係でもある。

「グロール、今日はちゃんと仕事したのか?」

「失礼だなエクセリオン、普段からちゃんとしてるさ」

「へぇ?じゃあ私が聞いたことが間違っていたのかな?相も変わらず目を離した隙に居なくなると、そう聞いたのだが」

「………まぁ、そんな時もあるか、な……?」

その言葉に、身に覚えのあるグロールフィンデルがあらぬ方へ目を逸らす。
それを見て、エクセリオンが声を上げて笑い出し、宝石のような碧翠色の瞳がグロールを睨むように見つめる。
そんないつもの光景に、彼らは顔を見合わせると、揃って声を上げ笑い合う。



今、エクセリオンは王城を離れて大門を守護するべく勤めていて、普段は王国唯一の出入り口である大門に居る。
彼が王城を訪れるのは、主君への定期的な現状報告の時と、年に一度の祭りの時。
今回は、その年に一度の祭りのために大門に仕える泉家の一族と、副官として5年毎に王城と大門を行き来している彼を連れて、久し振りに王城へと戻ってきた。
しばらくの休暇を与えられているが、やや真面目過ぎる彼は王城に戻るとすぐ、グロールが溜めていた仕事を片付けていた。
もちろん、エクセリオンも仕事を片付けるのを手伝っていたのだが、ふと今日は久し振りに笛を奏でようと思い付いたのだ。
王城の中庭の一角に、エクセリオン達3人が気に入っている木立があり、愛用の銀の横笛を携えそこに来たエクセリオンは、久し振りに笛を奏でていた。
王国でも屈指の奏者であるエクセリオンの笛の音は、美しく朗々と王城に響き渡っていた。
その笛の音を聞き付け、幼い頃から同じ時間を過ごしてきた親友が揃い、いつものような時間が流れ始める。
彼らは、親友達と過ごす何でもない時間が何よりも愛しく、何よりも大切に思っていた。
大門の司に任じられてから、こんな時間も減ってしまったけれど、だからこそ3人はこの時間がより愛しく大切に思えた。

「あれ?エクセリオン、そのブローチどうしたんだ?」

「貰ったのさ」

「グロールにもあるんだ」

そう言って、差し出された赤いビロード張りの小さな小箱を受け取り、その蓋を開く。
小箱の中には、石榴石とエメラルドで作られた花が美しい、金細工の髪留め。

「随分と遅くなったけど、前にブローチを貰ったお礼にね」

「相変わらず真面目だなぁ。だけどありがとう、大事にする」

早速とばかりに、結っていた金の髪を解いたグロールフィンデルは、今貰った髪留めでもう一度結い直す。
緩く波打った金の髪に、石榴石とエメラルドの輝きが映える。
木漏れ日に照らされ、それぞれを飾る宝石が燦然と輝く。





 

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あきゅろす。
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