広い世界の夢物語
６
主君の姫君も妹君も、エルフの女性には珍しいぐらい勝ち気でお転婆だったから、多少の免疫はあるのだ。
ただ少なくとも、こんな風に声を大にして怒る女性は身近にはいなかったから、やはりどうにも慣れないのだ。
「グランドラインは、さらに二本の海域にはさみ込まれて流れてるの!!それが、この無風の海域、"凪の帯"カームベルト!!」
「凪ね…どうりで風がねェ――で？それが一体…」
「要するにこの海は………!!」
呑気なゾロに憤るナミは、不意に怒鳴るのを止めた次の瞬間、船が大きく揺れ始める。
何事かと、自然とクルー全員がメインマストの側に集まった時には、既にメリー号は海面を離れていた。
船縁から見える景色は、さっきまでの無風で波ひとつなく広がる青い海だったのが一転、大きいと言うサイズよりも大きな海王類ばかり。
特に大きい海王類の鼻先に、メリー号はまるで小さな玩具のように乗っている状況に、ウソップが泡を吹いて倒れる。
「海王類の………………巣なの……大型のね……」
メインマストにしがみつき、涙を流すナミの言葉に、誰も返事を返せなかった。
今になって、ようやくナミがあんなにも必死になって嵐の軌道に船を戻せと騒いだのか、全員が正しく理解した。
鼻の頭にメリー号を乗せた海王類は、辺りを見回している。
「い…いいな、とにかく…!!こいつが海に帰っていく瞬間に、思いっきり漕ぐんだ!!」
どでかいオールを担ぎ、力に自信のあるゾロとサンジとルフィが身構える中、マルロスは不穏な気配を感じ取った。
次の瞬間、鼻先にメリー号を乗せた超巨大な海王類は、大きなくしゃみをひとつ。
「なにいいいい〜〜〜〜!!!?」
予想外のことに、メリー号と一緒にクルーも吹き飛ぶ。
咄嗟に、マルロスが側に居たナミを抱き寄せてマストにしがみつかせ、吹き飛ばされないように後ろから抱え込む。
気を失っていたウソップが、吹き飛ばされた勢いで船から飛んで行きかけたが、腕を伸ばしたルフィが引き戻す。
あと一歩遅れていたら、飛んできた大きなカエルに飲み込まれるところだったが、危ういところで甲板に引き戻される。
「うおおおおっ!!」
吹き飛ばされて着水した先は、運が良かったのか嵐の真っ只中で、揃って甲板で安堵の溜め息を吐く。
こんな経験をすれば、嫌でもグランドラインに入り口から入る理由が判り、ナミに異論を唱えることもない。
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