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広い世界の夢物語


本当なら新たな肉体を与えたいのだが、元々が異なる世界のエルフだから出来ないのだと、あの時ヴァラールに聞いている。
自分の身体を見下ろして、マルロスは何処か自嘲気味な笑みを浮かべる。

「………あの日から、今は続いているんだったな……」

全てを失ったあの日に、全てが終わって新たに起こった日々が今なのではなく、あの日から続く日々が今なのだ。

判っている。

だけど、そうと判っていても身体に刻まれた傷は、あの日のことを鮮明に思い起こさせて、込み上げる悲しみに呑まれる。
永遠の忠誠を誓った主君も、主君が愛してマルロス自身も護りたいと願った国民も、かけがえのない親友も。
何もかもを失い、永遠に帰ることも叶わないかの地を思えば、涙が溢れ出す。
あの日々は永遠に続かない、限られたものだと初めから判っていて、それでも、一日でも長く続くように願っていた。
何でもないことが幸せだった、そんな日々が唐突に終わりを迎えたあの日を思い出せば、際限なく溢れ出す涙。

「…………ふ、ぅ……っ」

ぎゅ、とキツく自分の肩を抱いて溢れる涙に頬を濡らし、崩れ落ちるように座り込む。
いつまでも泣いているわけにはいかない、と頭では判っていても涙は止まらない。
こんな姿、親友達には見せられないなと涙を流しながら思ったら、不思議と心が落ち着いた。
そうすれば、涙も自然に止まってくる。
負けず嫌いだった自分に今更気付いて、何故だかそれが少しおかしかった。
涙が止まれば、悲しんでばかりいた自分を少し恥じる。
今はまだ傷が深いけど、それでも悲しい記憶ばかりじゃないことは事実で、それでなくとも今は信じられる人達がいる。
彼らと一緒に生きると、そう決めたのだから、彼らに恥じないようにしなければ。

「………エクやグロールに、笑われてしまうな」

苦笑いをひとつ浮かべれば、悲しみの渦から立ち直る。


 

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あきゅろす。
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