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広い世界の夢物語


ゴンドリンの美しき銀足姫、イドリル・ケレブリンダルが以前から密かに用意させていたと言う抜け道には、幼い息子を抱いたイドリルと夫トゥオル、生き残った者が僅かに身を寄せ合っていた。
オークのどす黒い血で濡れた剣を携え、グロールフィンデルがトゥオル達の元に現れる。

「ここまで辿り着いたのは、僅かにこれだけか……」

決して多いとは言えない数に、グロールフィンデルは眉を寄せる。
その中でも戦える者は僅かで、ここまでオーク達に攻め込まれたら、残された者達を護りきれるか判らない。

「イドリル、この抜け道は何処へ通じてるんだ?」

「北の山脈を越え、キリス・ソロナスを通り外へ通じてます。モルゴスの軍勢にも判らぬはずの道です」

「……ではトゥオル殿、先頭を頼みます。私が殿を護ります」

「あぁ、判った」

頷いたトゥオルとイドリル達を先に行かせ、グロールフィンデルは抜け道をオーク達に追われないよう、警戒しながら一番最後を歩き出す。




どれだけ歩いたのか、ふと何かが聞こえた気がして足を止めたグロールフィンデルは、長剣を構えて後ろを振り向く。
警戒を促し、緊張が辺りを漂い息を潜めるように静まり返った抜け道に、微かな足音が近づいてくるのが判る。
その微かな足音が、荒々しく粗暴なオークとは違うことに気付いたグロールフィンデルは不思議に思い、構えていた剣先を下ろして耳に意識を集中する。
跳ねるような足音は軽やかで、徐々に近づいてくるその人影が誰なのか気付いたグロールフィンデルは、驚いたように剣を鞘に戻すと駆け出す。

「マルロス!!」

「っ、グロール!!」

黄金色の美しい髪も服も、返り血や炎の煤で黒く汚れ所々焼けて焦げてしまっている上に、傷口からはまだ血が滲んでいる様を見てグロールフィンデルは眉を寄せる。
幾つかの傷は一目見ただけでも酷いもので、走ってきたせいで息の切れたマルロスを抱き寄せて、汚れて乱れた長い髪を撫でて落ち着かせる。
抱き寄ったマルロスは、グロールフィンデルの肩に額を押し付けてきつく抱き付き、静かに肩を震わせた。
ただそれだけで、グロールフィンデルは全てを察した。
マルロスと一緒にエクセリオンが居ない理由も、マルロスが声を殺して涙を流す理由にも。



 

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あきゅろす。
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