[携帯モード] [URL送信]

広い世界の夢物語


隙を見ては襲ってくるオークを斬り倒しながら、マルロスはその場を立ち去ることが出来ずに居る。
主君の頼みを断ることは出来ないが、だからと言って見殺しにするようなことも出来ない。
そんなマルロスに、トゥアゴンが静かに言葉を紡ぐ。

「よく聞きなさいマルロス。イドリルが前々から用意していた抜け道があると言う。グロールフィンデルとトゥオル達が、生き残った者達を連れて先に行っている。そなたも行きなさい」

「抜け道、ですか……?」

「そうだ。イドリルとエアレンディル、生き残った者達を安全な場所まで逃がしなさい。私からの最後の命令だ、聞いてくれるね?」

なんて残酷な命令だろう、とマルロスは思わず思った。
忠誠を誓った主君を見捨て、逃げろと言われてマルロスが素直に聞けるとは思っていないからこそ、トゥアゴンは敢えて命令と言ったのだ。
マルロスは主君の命令を拒まない、そうと判っているからこその命令だった。
だがトゥアゴンは、マルロスが唯一無二と呼べるかけがえのない親友を置いてここに来たとは知らずに、その親友と同じようなことを口にした。
親友であるエクセリオンを、敵わない敵の前にただ一人置いてきた罪悪感に苛まれていたマルロスには、トゥアゴンの言葉はあまりに残酷だった。




何よりも大切に想う人を見殺しになど、本当ならマルロスには出来ないことだった。
ただ、マルロスの性格や人柄をよく知っているエクセリオンやトゥアゴンは、彼が断れない言い方もまた判っていた。
彼らの言葉はあまりに残酷で、だけど言っていることは決して間違ってはいないから、マルロスは反論を唱えられない。

「…………ではトゥアゴン様、ここに居るオーク共は私が片付けていきます。何人もこの王の間に立ち入らぬよう、誰も貴方を穢さぬよう……」

「……すまぬな、マルロス。そなたは必ず生き延びてくれ」

静かな言葉と共に、トゥアゴンはひどく優しい笑みを浮かべ、マルロスは周囲のオークに構わず臣下の礼を取った。
これが最後なのだと、マルロスは込み上げる涙を必死で堪え、襲ってきたオークを斬り捨て走り出す。
王の間を埋めていたオークを、マルロスは次から次へと瞬く間に倒して残ったオークを追い出し、大きな扉を閉ざす。

「さぁ来い、汚らわしいオーク共……誰にもあの方の最後を穢させはしない……」

扉の両脇にあった燭台を倒し、マルロスは徐々に大きくなる炎を背に、群がるオークと向かい合う。
咆哮を上げ襲いくるオークを、マルロスは静かな怒りと悲しみに剣を振るい、王の間に集まってきたオークを片付ける。



 

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!