広い世界の夢物語 夏至の夜 隠れ王国ゴンドリン。 四方を山に囲まれた、冠状山脈の内に広がるノルドールエルフの王国は、一年の内で一番賑やかな日を迎えていた。 今日は、年に一度の大切な宴が催される夏至の前夜。 王城の大広間が開放され、文官も武官も民も隔てなく賑やかな宴に顔を綻ばせ、香り豊かなワインや様々な料理が皆に振る舞われる。 今年の宴では、大門の守護を任じられている泉家の当主と、大将として城を護る金華家の当主に、彼らの副官を務める武官の3人のエルフによる笛と舞が披露された。 大門の守護を司るは、泉家の当主を務める青みを帯びた銀色の髪に紫暗の瞳が美しく、人々からは『泉の君』と呼び称えられるエルフ。 名をエクセリオン。 城に仕える武官達をまとめ城を護る大将は、金華家の当主を務める緩く波打つ鮮やかな金色の髪に蒼い瞳が映え、人々からは『金華公』と呼び称えられるエルフ。 名をグロールフィンデル。 エクセリオンとグロールフィンデルの2人は、『ゴンドリンの双璧』とも呼ばれ、国を守護する要としても知られる。 そんな2人の副官として彼らを支え、定期的に王城と大門を行き来して国の守護するは、美しい黄金色の髪に碧翠色の瞳を持つ、人々からは『黄金の雪』と呼び称えられるエルフ。 名をマルロス。 彼ら3人は、幼い頃から同じ時を過ごしてきた親友であり、かの至福の地から主君と共に氷の海を踏破し、ずっと国と主君のために仕えてきた。 国と主君を護るため、競い合うように腕を磨いて強くなり、国の守護の要と言われる程にまでなった。 その上、エクセリオンはゴンドリンでも屈指の腕前を持つ笛の奏者であり、グロールフィンデルは屈指の舞踏家であり、マルロスは笛と舞の両方を得意としている。 例年の宴なら、彼らは他の者達に頼まれてたまに笛や舞を披露するぐらいだが、今年は3人で示し合わせて華やかに披露したのだ。 今年は、人の子と結婚した主君の娘イドリルの7歳になる御子息のエアレンディルに、彼らはどうしてもと頼まれて受けたのだ。 その時、エクセリオンとマルロスは大門の守護に就いていたために、城に居るグロールフィンデルとは数回の手紙で打ち合わせをやり取りしただけで、盛大な舞踏を披露したのだ。 [*前へ][次へ#] |