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広い世界の夢物語


笛や竪琴が奏でられ、歌が響く大きな広間で行われる盛大な宴は、夏至の前日の夕方から始まる。
上等なワインと、数々の料理が振る舞われる。
華やかな舞が披露され、美しき調べの歌や笛に竪琴の音色が広間に響き、人々は誰しもが一年に一度の宴を楽しむ。

「すっげー、楽しそーっ」

目を輝かせるルフィに、マルロスは胸の痛みが和らぐのを感じた。
純粋に自分の話を楽しんで聞いているルフィに、話すために辛い記憶を呼び起こすことでさえも、何故か痛みが不思議と和らぐのだ。

「エルフは大抵の者が、歌だけでなく笛や竪琴などに長けているので、それに合わせて舞を舞う者や歌う者が居ましたね。言葉を覚えるのと同じように、笛や歌を自然と覚えるんです」

「へェ。じゃあマルロスも、何か出来るのか?」

ゾロの問い掛けに、マルロスは少し照れたように首を傾げながらはにかんで、嗜み程度ですがと答える。
その答えに、ルフィがわくわくと目を輝かせながら、何が出来るんだと問い詰める。
その勢いに少し押されながら、マルロスは照れ臭そうに微笑みながら答える。

「笛と舞を、少しですが」

「えー!?じゃあじゃあ、今度見せてくれよ!!」

「え?で、でも今、笛を持っていませんし……」

ルフィの勢いに、少し困ったようにマルロスが答える。
すると、側で話を聞いていたナミが笑いながら提案する。

「あら、だったら買ってあげるわよ?わたしもマルロスの笛を聞いてみたいもの」

「いえ、そんな……!!申し訳ないです」

「気にしなくて良いのよ、お金ならルフィの借金にするから」

「余計に申し訳ないです……」

困った様子のマルロスに、ナミはあっけらかんと笑って答えるが、突然借金を負わされることになったルフィは驚く。
だけど、マルロスの笛を聞いてみたいと言う気持ちが強く、迷わず借金を受け入れることに決め、まだ困ったように笑っているナミを見つめるマルロスの手を取る。

「良いぞナミ、おれが笛を買う金出すぞ!!」

「あらそう?じゃ、特別に利子は無しで良いわ」

「よし。じゃあマルロス、今度聞かせてくれよ」

「え?あ、はい……うん」

勢いに押されて頷く。
絶対に約束だからな、と手を握って何度も念を押すルフィに、マルロスも笑いながら頷く。




「お、何だ何だ?皆してこんな朝っぱらから何してんだ?」

不意に聞こえた声は、いつも通りに起きてきたウソップのもので、皆が皆こんなに早く起きていることに驚いている。
そんなウソップに、ルフィとサンジが顔を見合わせて、残念そうな、それでいて何処かからかうような表情で笑う。
ナミとゾロも、見えないように密かに笑っている。
そんな仲間を見て、ウソップは不思議そうに首を傾げる。

「残念だったなウソップ、もう少し早く起きてくれば良かったのによ」

「そうそう」

「は?」

「もっと早く起きてきたら、マルロスのすげェキレーな歌が聞けたんだぞ」

「マジでか!?何で起こしてくんねェんだ、おれ一人だけ仲間外れにすんな!!」

ショックを受けるウソップに、マルロス以外の見ていたクルーは腹を抱えて笑い、マルロスも大袈裟なウソップにくすくすと笑う。
がっくりと肩を落とし、少々へこんでいるウソップの肩をゾロが同情したように叩き、顔を上げたウソップに残念だったなと意地悪く笑う。
そんなゾロに、ウソップが腹を立てるが敵う相手じゃないことは判っているので、膝を抱えてブツブツと文句を呟く。

「ふふっ……でしたら、朝食が出来るまでもう一曲歌いましょうか?」

「やった!!なァなァ、今度はどんな歌だ?」

「そうですね、折角こんなに美しい海に居るのですから、海の歌はどうですか?」

サンジが少し残念そうだが、これからいくらでもマルロスの歌を聞く機会はあるので、ひとまず朝食の準備のためにキッチンへ向かう。
残ったクルーは、マルロスを囲うように思い思いの場所に座り込んで、ゆっくりと息を吸い込むマルロスを見つめる。

「………〜♪」

紡ぎ出される音は、波の音と重なり何処か厳かに甲板の上に響き、聞く者の心に海の偉大さを思い起こさせる。
聞き慣れない不思議な言葉は、ひどく美しく心に響く。
ルフィ達は自然と目を閉じ、マルロスの歌う大いなる海の歌の世界に引き込まれ、胸の内に様々な海を思い描いた。
キッチンで料理をしているサンジもまた、胸の内に追い求める奇跡の海を思い描いた。


 

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