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広い世界の夢物語
語らい

夜明け頃、不意に何かが聞こえたような気がして目を覚ましたビビは、微かに歌が聞こえてくるのに気付く。
隣を見れば、まだナミは眠っている。
こんな朝早くに誰だろう、と好奇心を刺激され、ビビは静かに女部屋を出る。
倉庫の扉を開けると、まだ少し冷たい夜明け独特の澄んだ空気が頬を撫で、船上には綺麗な歌声が響いていた。

「この声……マルロスさん?」

ゆっくりと、足音を殺して船首甲板に続く階段を上り、そこにマルロスの後ろ姿を見つける。
夜明けの風に黄金色の髪を揺らしながら、澄んだ綺麗な声で聞き慣れない言葉で歌を歌うその姿に、ビビは知らず目を奪われて。
階段を上がりきった所で立ち尽くし、ビビはマルロスの澄んだ歌声に聞き惚れる。

「♪〜…………」

消え入るようにマルロスの歌が終わると、最初から気付いていたようにマルロスが振り返り、立ち尽くすビビを見つめる。
朝陽を背に、煌めく黄金色の髪を風に揺らして微笑むマルロスの姿が、ビビにはまるで絵画のように見えた。
こんなにも美しく、そして儚く見える人を見たことがない、とビビは思う。

「おはようございます、ビビさん」

「え、あ………おはよう、ございます」

早起きですね、と柔らかく笑うマルロスにビビは歌声が聞こえたから、と小さく答える。
誘われるようにマルロスの傍らに立つと、綺麗な朝陽が目に飛び込んでくる。

「………何て歌なんですか?聴いたことなかったから」

「エルフの歌ですよ、太陽に捧げる歌なんです」

殆んど毎朝歌ってるんです、と笑うマルロスに、ビビは少し惜しい気持ちになる。
こんなにも綺麗な歌を、今まで聞き逃していたと知ったから。
人間のように眠る必要がないから、マルロスは毎朝夜明け頃に甲板に出てきて、朝陽に歌を捧げていた。
本当なら夏至の日の朝に歌う歌なのだが、歌そのものをマルロスが好きだったから、毎日のようにここで歌っていた。

「………ナミさんに聞いたんですけど、マルロスさんは元々、国に仕えてらしたんですか?」

「えぇ、そうですよ。武官の1人として王家にお仕えしてました」

どんな国だった、とビビに問われ、マルロスは優しい目で朝陽を見つめながら話す。
環状山脈の内側にある国で、他国との交流は殆んどない閉ざされた王国だったが、満たされて栄えていた国だった。
主君は賢者とも謳われ、とても優れた人で、何より国と民を愛していた。
懐かしむように、そう語るマルロスの瞳は優しく慈しみに溢れていて、マルロス自身もその国を愛していたことが伝わる。
その眼差しに、ビビは故郷を思い出す。

「ビビさんって、私の仕えていた主君の姫君に少し似ているんですよ」

「私が?」

「えぇ、お転婆なところが」

そう言って笑うマルロスに、ビビもつられたように笑う。


 

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あきゅろす。
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