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広い世界の夢物語


怪我の診察も終わり、改めて服を着込んでいたマルロスが、ふと思い出したようにチョッパーに問い掛ける。

「そうだチョッパー、今まで何ともなかったものが急に恐ろしくなって身体が震え出したりすると、やはり何処かおかしいのか?」

「どうだろう、症状や程度にもよると思うけど……そんなことがあるのか?」

「うん、まぁ……私は病気にはならないから、何か他に原因があるのかな?」

カルテを書き終えたチョッパーに振り返り、ソファに深く腰掛ける。
隣のチョッパーは、マルロスの言葉に首を傾げながらいくつかの病気の可能性を示すが、今ひとつ症状が合わない。

「どんな時に恐くなって、身体が震えたりするのか、具体的には判るか?」

「………炎、を見た時だ。サンジの煙草みたいに小さな火も、震えたりはしないが恐い……」

「じゃあ、炎で何か恐い経験をしたことは?」

「………国を失った。主君や親友も、何もかも全てを炎と闇に奪われた……」

その時のことを思い出したように、マルロスが俯いて手を握り締める。
微かに震えているマルロスに、チョッパーはひとつの可能性を示す。

「トラウマ、かなぁ」

「トラ……ウマ?」

「心の傷のことだよ。大切なものを失ったり、強い恐怖で心に負った傷が原因で、その時のことを思い出すと恐くなったりするんだ」

簡単に、判りやすく説明してみせたチョッパーの言葉に、マルロスは感心したように頷く。

「マルロスの場合、炎がその時のことを思い出させる原因みたいだな」

「…………ずっと、このままなのか?」

「ううん、ゆっくり時間をかければ良くなるよ。大丈夫。だからマルロス、時々でいいから、その時のこと話してくれるか?人に話すことも治療だから。もちろん、マルロスが話せる時に話してくれればいいんだ」

「……あぁ、判った」

軽く溜め息を吐き出して、マルロスはひとつ頷く。
チョッパーの言葉に、重かった心が少し軽くなったように思えた。

「チョッパーは優しいな」

「そんなことねぇよ」

マルロスの言葉に、嬉しそうに笑うチョッパーにマルロスも頬を緩め、帽子の上から頭を撫でてやる。
チョッパーは、自分が人間の仲間じゃないことに負い目を感じているが、マルロスはそれがなくなれば良いと不意に思った。
少なくとも、この船のクルー達はそんなことはちっとも気にしていないし、マルロス自身もそうだ。
何より、マルロス自身も人間ではないのだ。

「なぁチョッパー……さっきも話したように、私はエルフだ。チョッパーと同じように、人間の仲間とは少し違う」

「マルロス……?」

「でも、それを負い目に感じることはないんだ。人とは違くても、彼らは受け入れてくれるから」

マルロスの言葉に、チョッパーは大きく頷く。
そんなチョッパーにマルロスも笑みを浮かべ、優しく頭を撫でてやる。

「あぁそうだ、傷跡のことはまだ内緒にな?」

「うん」

頷いたチョッパーを膝に抱き上げて、マルロスは優しくその頭を撫でてやる。


 

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