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広い世界の夢物語
雪崩

どれだけ走ったのか、ソリは深い雪に止まってしまう。

「山を登ってしまったようですね……」

どうしよう、とソリの上で顔を見合わせた時だった。
不意に地響きが辺りに響き、不穏な気配が漂う。
ソリの上に立ち上がり、マルロスが耳を澄ましながら辺りの様子を見回せば、さぁっと血の気が引いていく。

「ソリを下りるんだ!!早く!!雪崩が来る!!」

言うが早いか、ソリを飛び下りたマルロスはソリを引いていたヤギ達の手綱を外し、逃がしてやる。
マルロスの言葉に、ウソップとビビも慌ててソリから飛び下りると、深い雪に足を取られながら走り出す。
ゴゴゴゴゴ、と迫り来る雪崩にウソップが悲鳴を上げる。

「くっ……!!」

雪の上を走るマルロスが、遅れていたビビを抱き寄せるのとほぼ同時に、背後に迫っていた雪崩に呑み込まれる。
雪に埋まる瞬間、ウソップもまた雪崩に呑まれるのが見えた。
押し寄せる雪の塊と、その重さからビビを庇うマルロスの骨が軋む。
呼吸さえ雪の塊に奪われ、意識が遠ざかる。




どれだけ気を失っていたのか、息苦しさに意識を取り戻したマルロスは、何とか身体を動かそうと試みる。
運が良かったのか、雪崩に呑み込まれてもまだ浅い場所だったらしく、何とか身体を起こして雪の上に顔を出す。

「ビビさん、ビビさんっ」

抱え込んでいたビビは、軽い酸欠で気を失っていただけのようで、マルロスが肩を揺さぶるとすぐに目を覚ます。
雪の上に這い出し、辺りを見回す。
背の高い木々まで雪に埋まり、辺りは一面真っ白だった。

「ウソップもそんなに離れていない場所に埋まっているはずだ………く、ぅっ」

姿の見えないウソップを探そうと、立ち上がろうとしたマルロスの胸に、鋭い痛みが走った。
思わず呻いて踞り、ズキズキと痛む胸を押さえる。

「マルロスさんっ」

「だ、大丈夫です……ちょっと骨をやられたみたいで……」

苦笑いを浮かべ、顔を上げたマルロスの額には脂汗がじんわりと滲み、相当の痛みを堪えていることを示す。
そんな様子を見て、ビビはマルロスを座らせる。

「ウソップさんは私が探してきますから、マルロスさんはここで休んでてください」

「………判りました、お願いします」

邪魔にならないよう、素直に頷いたマルロスにビビもひとつ頷きを返すと、ウソップを探しに離れていく。
時折ウソップを呼びながら、ビビは少しずつ遠ざかる。
その間、マルロスは胸元を手で押さえながら呼吸を整え、怪我の具合を診る。
右の胸部、脇腹に近い場所が特に痛みが酷い。

「折れては、ないようだな」

ヒビが入ったのだろう、と予想しながら、呼吸するだけで痛む胸を押さえる。
痛みに眉を寄せながら、ゆっくりと立ち上がる。
少し遠くから、ビビの声が聞こえてくる。
どうやらウソップを見つけたらしい、とそちらの方へ向かって歩き出したマルロスは、白い視界の中に鮮やかな水色を見つける。
ビビの姿と、顔を殴られまくっているウソップと、寝ちゃダメと叫ぶ声。
マルロスの頬が引き吊る。
それでも、何とか歩み寄ったマルロスが見たものは顔の腫れたウソップと、気まずそうに顔を背けるビビだった。


 

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