広い世界の夢物語 3 ナミの指示なしでは、夜の海を航海するのは危険だと判断し、船の錨を下ろして数時間後。 薄暗がりの中、船室に響く複数の大きないびきに目を覚ましたナミが、ゆっくりとベッドに身体を起こす。 辺りを見回せば、見張りだろうサンジ以外の全員がベッドの側の床に転がり、毛布一枚で眠っている。 その様子を見て、ナミは早く治さなくちゃと思いながら、もう一度ベッドに横たわる。 「……ナミさん?」 「………マルロス……」 ベッドの微かな軋みに目を覚ましたのか、それとも眠ってはいなかったのか判らないが、暗がりに浮かぶ黄金色がベッドの傍らに近付く。 額から落ちたタオルを拾い、側の洗面器に張った冷たい水に浸しながら、マルロスはナミに柔らかく笑いかける。 ひどく安心するその笑みに、ナミはゆっくり身体から力を抜くと、額に乗せられる冷たいタオルに息を吐く。 「喉、渇いてませんか?」 ベッドに凭れて眠るビビを起こさぬよう、マルロスが静かに問いかける。 頷いたナミに、マルロスは水差しから冷たい水をグラスに注いで、ベッドの側に戻る。 ナミの身体を支えながら、ゆっくりとグラスを傾けて飲ませてやりながら、マルロスは務めて明るい表情を保った。 「………賑やかね」 「皆、どうしてもここで眠ると言って聞かなくて……」 苦笑いを浮かべるマルロスに、ナミも同じように小さく笑ってみせると、暖かな布団に潜り込んだ。 仲間が心配してくれている、それが少しくすぐったくて、嬉しかった。 「……マルロスの手、冷たくて気持ち良いわね」 「そうですか?」 額にタオルを乗せ直し、子供をあやすように頬を撫でていたマルロスの手を、ナミはそっと捕まえた。 身体がそれだけ熱いのか、それともマルロスの体温が元々低い方なのか、少しひやりとした綺麗な手がひどく心地好かった。 握った手と、空いた手でゆっくりと頬を撫でる優しさに、少しずつ眠くなる。 もっとこの心地好さを感じていたい、と頭では思っていても、忍び寄る睡魔には勝てない。 静かに寝入ったナミに、マルロスは小さな笑みを浮かべると、しっかりと布団を掛け直す。 握られた手も、頬を撫でる手もそのままで。 [*前へ][次へ#] |