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広い世界の夢物語
翌日(サンジ視点)

朝飯の片付けをしながら、昨夜のことを考える。
一人で泣いていたマルロスを、飲みに誘って話をした。
ワインのグラスを手に、何処か憂いの表情を浮かべていたマルロスが、親友のことを話す時に見せた優しい顔。
愛しい人を想うような、そんな表情を見せながら、大切に紡がれた想い出。
マルロスの想い出話を聞きながら、ふと気が付いた。
マルロスがよく、何かを愛しむように見つめている時や、空を見上げて考え事をしている時、同じ表情をしていること。
それはつまり、親友のことを思い出している時なんだ、と気付いて胸が痛んだ。
マルロスの心を占めている、親友と失くしたもの達はもう二度と戻らないとマルロス自身が痛いぐらい知っているから、だからいつまでも心を奪う。
それだけ大切なものだった、それは判っている。
それでも、マルロスの心が今もまだ過去に捕らわれているだなんて、こっちが寂しいじゃないか。
そんなことを考えながら、ぷかりと紫煙を吐き出す。




マルロスの歌を聴いた時は、本当に驚いた。
歌っている言葉そのものは判らないのに、何故か頭に次から次へと浮かんでくる見知らぬ景色に、息を呑んだ。
頭に浮かぶ景色が、マルロスの見てきたものだと理解するのに時間はかからず、その景色に目を奪われた。
ひとつの壮大な物語を見ているような、そんな気がしてくるマルロスの記憶の多さ。
その記憶の殆んどに、必ず映っていた金と銀の髪をした2人の男の姿に、彼らがマルロスの親友だとすぐに判った。
他のエルフの姿も見えたけど、マルロスとその親友達が特別美しく見えたのは、きっと気のせいじゃない。
そして、マルロスの記憶は幸福と悲しみに満ちていた。
少なくとも、そう感じ取れた。



平穏と幸福を約束された地を、闇に奪われた至宝を取り戻すために去ることを選び、そのために同じエルフの命を奪った。
そして、大海を隔てた彼方の地を目指して奪った船で海を渡る時に仲間に裏切られ、息すら凍り付きそうな氷の海峡を歩いて渡ったり。
ようやく手に入れた、隠された王国での平穏な時間は、裏切りで崩壊する。
歌に観た景色だけでは、マルロス達に何があったのか、その全ては判らない。
ただ言えるのは、マルロスの涙は大切な全てを失ったことへの未練ではない、と言うこと。
マルロスは失いたくないから、全てを護るために文字通り命を賭けて戦い抜いて、その果てに全てを失った、自らの命を含めて。
それなのに、自分だけがもう一度生きることになったことに対する戸惑いと、二度と逢えない寂しさに涙する。


 

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