広い世界の夢物語
出逢い
ココヤシ村を出航したその夜、不寝番を任されたルフィは見張り台の上で睡魔と戦いながら、満月に照らされる夜の海を眺めていた。
眠気を誘う潮騒に、ルフィが大きな欠伸をひとつした時、ふと視界の端に浮かぶものに気が付いた。
よくよく目を凝らせば、それが一艘の小舟だと判る。
こんな海のど真ん中で、波に揺れるがままに漂っている小舟に興味を引かれ、ルフィは身軽に見張り台から甲板に降りる。
後甲板へと走れば、見張り台に居た時よりも小舟が近くに見える。
じっと目を凝らせば、小舟に誰かが乗っているのが判る。
銀色の月明かりを受けて、キラキラと輝く金色が小舟に合わせてゆらゆらと揺れ、ルフィの興味が更に増す。
思わず声を掛けると、その声が届いたのか金色が振り返り、応えるように立ち上がる。
潮の流れに乗って、徐々に小舟が近付いてきていることに気付いたルフィは、何かを思い付いたように後甲板を後にする。
向かった先は倉庫。
中にあったロープの束を掴み、後甲板へと取って返したルフィは、持ってきたロープを更に近付いていた小舟へ投げる。
「上がってこいよ!!」
そうルフィが声を掛けると、綺麗な金色をしたその人はロープと船とを交互に見比べ、そしてロープを手に取った。
するすると、まるで重さを感じさせない身軽さでメリー号に乗り込んだ彼に、ルフィは興味で輝いている眼差しで近付く。
「なぁ、お前こんなとこで何してたんだ?遭難か?」
ルフィがそう問い掛けると、その人は曖昧な笑顔を浮かべて答えない。
ただ、その笑顔がひどくキレイで儚げで、ルフィは思わず息を呑んだ。
眩しいくらいの金色の長い髪、鮮やかな碧翠色の瞳とそれを縁取る金の睫毛に、少し厚めの薄紅色の唇。
ルフィには、その人は絵本の中から飛び出してきた空想の世界の天使に見え、問い掛けたかった疑問が出てこなくなった。
「………あの」
急に、顔を見上げたまま黙り込んだルフィを訝しんでか、その人は躊躇いがちに口を開いた。
それにはっと我を取り戻したルフィは、誤魔化すような笑顔を浮かべる。
「名前、何てゆうんだ?おれはルフィだ」
「ぇ、あ……マルロス、と」
囁くような、耳に心地好いその声に満足そうにルフィは笑い、少し困ったようなマルロスの手を取る。
「なぁマルロス、おれの仲間にならないか?」
脈絡も何もない、ルフィの唐突な誘いに彼は驚きを隠せない表情で、呆然とルフィを見つめている。
「良いだろ?おれと一緒に海賊やろう!!」
「え?え、と……あ、あの、海賊、とは……?」
「何だ、海賊知らねェのか?世界中を船で冒険すんだ、すげェ楽しいんだぞ!!」
困惑した表情の彼に構わず、ルフィは楽しげに話す。
今までの冒険と仲間のことを話すルフィに、黙って聞いていた彼の口元に笑みが浮かぶ。
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