長編夢 今がその場面だと、理解した(短編/木吉/男主/隼様) 「重そうだな。手伝うぞ?」 先生に頼まれた少し重い教材を運んでいたら、話かけられた。 『ああ、いや、大丈夫、』 「気にするなって」 持てないわけじゃないし断ろうとしたら、上の荷物を取られてしまった。 『......どうも。理科室に持って行きたいんだ』 「ああ!」 人の好さそうな笑みを向けられる。 『えーと...木吉、だっけ』 「お、知ってるのか俺のこと」 まあこの高校生離れした体型の人間がいたら流石に覚えると思う。目の前にいる木吉はやたら嬉しそうなそんな表情をしている。 『まあとりあえずは。確かバスケ部だよな』 「良く知ってるな!」 『......次は何を知っているんだ!って顔しても今ので木吉に対する情報はゼロになったぞ』 ちょっと変わった奴なんだろうか。 「それは悲しいなぁ」 丁度理科室に着いたので、片手でドアを開ける。なんだかんだあの荷物でドアを開けるのは大変だから持ってもらって良かった。 『てゆーか木吉こそ俺のこと知ってるのかよ。多分話したことほとんどないし』 教材を指定の場所に置き、一安心。木吉も同じくドサッと教材を置いた。 「知ってるぞ」 そして、俺の方を向く。 『え?』 「白戸雪哉。帰宅部2のC」 『え?え?』 何か声的に笑っているのは分かるけど、理科室は窓側の黒いカーテンが閉まってて暗いので表情までは見えなくて。 一歩一歩、俺に近づいてくる木吉。背の高さもあり、威圧感が半端じゃない。 「そんな怯えたような身構えをするなって」 『じゃあ、何なんだよ』 「白戸が好きだ」 『......いや、俺達ほぼ今出会ったばかりだよな?』 木吉が何を言っているのか全然分からない。 「ははっ、時間なんて関係ないだろ?」 『多少はあるだろ』 「......だから、とって食うようなつもりじゃあないって。言いたかっただけだ」 木吉が、ドアの方向に行く。 『木吉!...ありがとう』 木吉は少しだけ振り向いて笑った。 確かに告白した後何もしてこなかったので言いたかっただけなのかもしれない。何とも煮え切らないような感じだったけど、あまり知らない木吉に対してそれ以上の感情を持つというのも考えられなかった。 「よ!」 しかしある意味ふてぶてしいのか、木吉はそれ以降俺に話かけてくることが多くなった。 『何やってるんだ?』 あの理科室のときの雰囲気を出されると怖いというか、どうすればいいか分からないけど、基本的にいい奴ではある。 「ああ、この花達がな。ちょっと踏まれてたから植え替えようかと思って」 人に踏まれたのか、少し元気のない花があった。 『ふーん...じゃあ俺も手伝うよ』 「いいのか?汚れるぞ」 『土くらい別に大丈夫だって』 「そうか。ありがとな」 鼻歌を歌いながらせっせと植え替える木吉。俺も微力ながら手伝った。 『楽しそうだな』 「白戸がいるからな」 『恥ずかしいからやめれ』 後、反応し辛い。 「でも流石に避けられるかと思ったのに、逆に仲良くなれたから告白は成功だな!」 そんなわけないだろ、と思う。返事をしてもいないのに普通に話しかける嫌な奴だろ、俺は。 『...木吉』 「なんだ?」 『いや、えーと...えーと...ご飯今度一緒に食べよう、』 何がしたかったのか、自分でもよく分からない。今俺は何て声をかけようとしたんだろう。 「ああ!もちろんだ!」 また、嬉しそうな笑顔を見せる木吉に罪悪感が沸いた。俺は木吉に何を求めているんだろう。酷いかもしれないけど、気持ちに応えられないのなら突き放した方がいいのかもしれないのに。 『日向。木吉って知ってるか?知ってるよな、バスケ部だし』 告白から一ヶ月経った日ぐらいに同じクラスの日向に問いかけてみた。 「...いや、まぁそら知ってるけどどうした」 『...最近友達になったんだよ』 流石に告白されたとは言えなかった。 「へぇ」 『木吉ってどんな奴?』 そう聞いたら何か凄いイラっとした顔をされた。 「基本が腹立つ、いつもヘラヘラしてる、わりには何か企んでるような感じだし」 まさかそういう返しが来るとは思わなくてちょっと戸惑った。木吉何か恨まれてんのか。 『で、キャプテンだっけ、木吉って』 「いや俺だけど」 すまん、と謝っておく。 「......や、実際バスケ部の創立者だからそう意味ではキャプテンだし、バスケの腕も二年の中では一番だと思うぜ。頭もいいし」 『頭いいんだ!?』 「...学年一位も取ったことあるぞ。腹立つけど」 腹立ち過ぎだろ日向は。でも分からなくはない。あれは、何を考えてるか分からないタイプの人間だ。 そうか、と言ったら何でそんなこと聞くんだ、と逆に問われた。もちろん木吉に告白された、なんて答えられる筈がなくて。 『最近、荷物持ってもらったんだよ。先生に頼まれた教材重くて困ってたらちょっと持ってくれた』 「ふーん...まぁ、基本的には誰にでも優しいからな」 誰にでも、か。そんな資格別にないのに、何故か胸がズキリと痛んだ。 自分でも何となく分かる。わざわざ木吉のことを聞いた時点で多少は木吉のことが気になっているんだ。 『確かに、いい奴だったよ』 でもそんな気持ち、悟られてしまわないようにしないといけない。 「俺とはたまにケンカするけどな」 あの温厚そうな木吉が?何でだろう、とその理由を尋ねてみた。 『鉄心』 中庭の木陰で木吉と昼飯を食べることになり、食べている途中に一言だけそう発した。飲み物を吐き出しそうになっている木吉。 『...やっぱり、こう呼ばれるの苦手なのか』 「日向か?日向か?」 笑顔で俺の肩を掴んできた。 『まぁ日向だけど、本当に嫌だったんだな!ごめんて!』 「嫌っていうかなぁ...恥ずかしいんだよな〜」 どうやら中学の頃から呼ばれている名前らしいけど、そう呼ばれるのは好ましくないみたいだ。 「まー、日向とたまに喧嘩するとそうやってわざと言ってきたりするんだけどな」 そうやって言っている木吉の横顔は、本当に日向に怒っているわけではなさそうだった。 日向も言っていたけど、なんだかんだお互い信頼しているみたいだった。 「白戸にはどうせなら鉄心よりも鉄平って呼んで欲しいぞ」 『......お前、中々のタラシだな』 「そうか?」 日向の言っていた意味が何となく分かった。確かにいつも何か企んでそうというか。 『分かったよ、鉄平』 俺がそう言えば。 「ああ!雪哉!」 そうやって、顔を綻ばせて笑うんだ。 『あの、さ...こんなこと聞いて無神経だって思うかもしれないけど、聞いてもいいか?』 「...なんだ?」 『何で、俺のこと好きになったんだ?』 「え?」 『理由、全く分からないし、個人的に会った覚えもないんだよな』 平々凡々な生活を送っている俺が、木吉みたいに頭も良くて運動神経も良い奴に好かれる理由なんて、ない。そう言ったら、木吉は笑った。 「やっぱり覚えてないよな〜」 へらっと、恥ずかしそうに。 「俺、高1の途中から膝の怪我で入院してたんだ」 『...え?』 「で、やっと戻ってはきたけど、日常的生活を送るのは少し難しいところもあったんだ」 バスケ部にいるのは知っていたけど、そんな事情は知らなかった。学校には来ていたらしいが部活には出られない日々もあったらしい。 「俺じいちゃんとばあちゃんと暮らしてるんだけどな、ある日買い物帰りのばあちゃんを見つけたんだ。じいちゃんは風邪引いてたし、重そうな荷物持ってるばあちゃんに荷物持つよ、と言いたかった」 だけど、膝が痛んでしまったらしい。 「情けなかった。だけどそんな時、雪哉がばあちゃんに声をかけてくれてな、家まで荷物持って付き添ってくれたんだ。で、ちょうど玄関で雪哉とすれ違って会釈したんだ」 記憶を辿ってみた。確かに、そんなことをしたような気がしなくもない。 『でも、多分たまたまだって。そういう風に優しくしたのなんて』 「そんなことなかったぞ。学校で見かける雪哉は、誰かが落としたゴミとか律儀に拾って捨てたり、女子が重い荷物持ってたら持ってあげてた。花だって植え替えるの手伝ってくれた」 『そ、それは...鉄平も同じことしてくれただろ』 でも、今はあの位の重い荷物も持てるようになったのか。ちょっとだけホッとした。 「俺はあの時ちょっとした下心があったからな〜」 『いや、だからサラッとそういうことをだな...』 「だから、俺は雪哉が好きだ。優しい雪哉が、本当に好きだ」 理科室で告白された時とは明らかに違う。 あの時は雰囲気に圧倒されて怖かったのに、今は逃げ出したいほど恥ずかしくて、嬉しい。 『お、俺も好き、だ』 慣れない言葉を口にして、なんだかいたたまれなくなって下を向いた。結構間が空いて不安になってしまい、顔を上げた。 『言うのが遅くなってゴメ、な、何で泣いてるんだ!?』 少し惚けた表情で、鉄平が涙を流していた。 「スマン...嬉しくて」 一歩、二歩と俺に近づいてきて。あの時は怖かったのに、今は自分から近づいて行き惹かれ合うように、抱きしめ合った。 「なぁ、何でだ?」 『え?』 理科室の時にほぼほぼフラれたと思ってたのに、何で俺を好きになってくれたのか、と聞かれた。 『鉄平と同じ理由、だな』 「...優しいか?」 人間、自分のことは良く分からないらしい。 『前は怖かったと思ったけど、優しいと思う』 「これから先場面によっては優しくなくなるかもしれないぞ?」 その言葉の真意は良く分からない。 『......場面ってどんな場面だよ』 「あ、もしかしたら怖さとドキドキのドップラー効果ってやつだな!」 『吊り橋効果だろ』 天然で言っているのかわざとなのか、まだ正直掴めないところもあるけど。 『...ちなみに、その効果はもう使えないけど』 「えー!」 『......怖さの方は使えないって意味だからな?』 すぐその意味を汲み取ったのか、俺を抱きしめた後に俺に近付き唇が重なりそうになった瞬間に中庭に人が来る気配がして。 咄嗟に隠れたはいいものの。完全に押し倒された体勢になってしまった。 うわあぁ、と思ったら鉄平の方が完全にキャパオーバーになったのか真っ赤になって停止していた。 どうせここからなら誰からも見えやしない、と俺の方からキスをした。有効なのはやっぱりドキドキの方だけらしいと笑っていたら、我に返った鉄平がその体勢のまま、俺にキスをして。 「雪哉...」 熱っぽく名前を呼ばれてドキッとしていたら、昼休み終了のチャイムが鳴った。 「間が悪いな」 『そうだな』 流石に戻らないといけないと立ち上がろうとしたら、腕を引っ張られもう一度空を仰ぐような体勢に。 鉄平からの二度目のそれにより、文句の一つすら言えることはなかった。 ------------------------------------------------------------ 隼様、リクエストありがとうございました。 大変遅くなってしまい申し訳ございません。 男主、木吉先輩ということでリクエスト頂きました!短編で木吉先輩を書いたのは初めてなので違和感がないか心配ではありますが、木吉先輩の純粋なところとちょっと強引なところが書いていて楽しかったです。 何かございましたら、フォームメールや拍手などでご連絡頂ければ幸いです。 ここまで読んで下さった方もありがとうございました! [*前へ] [戻る] |