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箱ヅメ6




「それは何よりです、ええ、僕ですか?あぁ、大丈夫ですよご心配なさらず…少し憎い展開にはなりましたが、送られたのは旧知の敵でしたので何とか事なきを終えています。ええ、仕事の方はもう大丈夫ですよ、明後日までにはまとめてお伝え致しますので、…ええ、ええ、これからもご贔屓でいて下さいね。」

携帯電話から歪んだ口元を離し、電話を切った。色々な“事”を終えた後、かかってきた仕事上の電話に愛想よく、何事も無かったかのように話していた臨也。その様子に軽く苛々と視線を向けていた静雄は、盛大に舌打ちをした。

「シズちゃん、舌打ちし過ぎだろ。そのまま舌切れて死ねばいいのにねぇ、ホント…。」
「いつもより怨念が篭って聞こえるのは何でかなぁ臨也君よぉ。」
「痛いんだよ、体。」

裸のままベッドの上で笑えないトーンの声が響く。今、本気でお互いを殺したい状況なのだ色々と、まぁ色々と。静雄はベッドから離れたところで落ち込んだように煙草をふかしていた。

「落ち込みたいのはこっちだからね。もう何でよりによってシズちゃんなのさ、スーツケースを始めに開けられた時に煙草の匂いがしたからもしかしてとは思ったけどさぁ、もう最悪だ、何でこうなっちゃったんだよ、いくら薬のせいとはいえ…、あああ、気持ち悪い、吐きそう、吐きそうだねシズちゃん。」
「まったくだ、おい、ベッドで吐くなよ、吐くならベランダから落ちて吐け。」
「…ていうか、何でシズちゃんノリノリだったんだよ、マジで頭おかしいんじゃないのか。」
「………」
「無視かよ。」

臨也にも珍しく青筋が立っており、今、体がだるくなくて手元に怪物にも刺さるほどの鋭く強靭なナイフがあれば間違いなく目の前の天敵に突き刺している所だ。自分も自分だ、いや、あれは薬のせいなんだ仕方が無い、そこまでは割り切れるものの、臨也は未だに相手がシズちゃんだという事実に納得ができない。

「そういう手前も女みたいに喘いでたじゃねぇか気色悪い。」
「なら猿轡つけといたままにすれば良かっただろ、ていうか何で猿轡してくるかな、もうホント、シズちゃんがこんなアブノーマルだなんて思わなかった。あれは薬の過失じゃないからね。完全にシズちゃんの趣味だからね。ていうかそもそも君の大嫌いな俺であそこまでヤれるシズちゃんの性欲が理解できない。何、俺の事綺麗だとでも思った?シズちゃんのお気に召しましたか?」
「………」
「否定しろよ。」

静雄の沈黙に鳥肌が立った臨也は、心の中で仕事上、趣味のために現場に立つのは極力控えようと決心する。薬を盛ってきた奴らと俺を送達していた奴らは先程の電話で本来の取引相手に見るも無残な姿にされただろうからよしとして、この怒りはどこに向ければいい。矛先は完全にこの怪物しかいなのだ。

「…くそ、二度としない、シズちゃんとこんな事になるって予想がついてたら趣味に全力を注いだりしないよ、あああもう、そもそも何かに巻き込まれるという偶然さえなければこんな失態冒さなかったのに…!」
「偶然といえばお前がアブノーマルなプレイでスーツケースに詰められて俺の家の前に置かれてたのも偶然なのか?お前が何かしたんじゃねぇのかよ。」
「ひどい勘違いだね。俺は仕事を快くしていただけだよ。」
「何が快くだ。珍しく早々に仕事終わったら、帰りに暴走車が泥跳ねやがってズボン汚されてムカついたから自動販売機投げてやったのに、そのままノロノロ走りながらどっか逃げていくもんだからむしゃくしゃしてたのによぉ、いざ帰ってみたらこの有様だ。」

臨也は苛立ってぶっきらぼうになった静雄の何気ない愚痴に、ひどく引っかかった。暴走車?自動販売機?逃走?シズちゃん、すぐさま仮説は一つの確信を持って臨也の頭の中で繋ぎ直された。疑うべきだったピースが合わさる。臨也は内心に冷静な怒りを滾らせながら静雄に尋ねた。

「その車、男は何人乗ってた?」
「あぁ?何でお前が暴走車なんか…、まぁいいや。男は3人乗ってたな、後部座席には誰も乗ってなかった。荷物でも乗せてたのか?くそ、思い出したら苛々してきた、一発殴らせろ。」
「ははは、シズちゃんと同意見だなんて反吐が出るよ。でも丁度良かった、俺も今猛烈にシズちゃんを刺し殺したい。」

お互いの間に険悪な雰囲気が生まれるが、この状況に疲れ果てて二人とも動こうとしなかった。臨也はことの全ての原因である静雄に、今度は意図的に迷惑をかけてやろうと思案する。


暴走車、恐らく俺を送達していた下っ端の車。後部座席の荷物はスーツケース、俺なわけだ。その車に、俺の予想範囲外に常にいるどう動くか一切不明の偶然者、シズちゃんが通りがかって、運悪く車はこの怪物の怒りを買い、自動販売機に追突事故を起こされ、処理に困った下っ端たちは、先程自分達を襲った怪物がスーツケースの中身と犬猿だと思い至り、意外にそのツテを使えば有名なシズちゃんの家の前にスーツケースを置き去り、犬猿の仲である俺はシズちゃんが処分してくれるだろうと確信した。
大方そんな所だろう。
まったくもって不愉快だ。いつもシズちゃんは俺の想定を軽く飛び越えてくれる。全部君のせいじゃないか。まさか下っ端達もシズちゃんが俺を処分せずに挙句何を思ったか事にまで及んだとは想像できないだろう。いや想像して欲しくないけどね。いやでも、薬のせいでのお相手がシズちゃんなのは殊更最悪じゃないか。
嫌悪するね、シズちゃんと、特に自分に。決して良かったなんて思えない。思ってないからね。そんなの、認めない。


体育座りで力なく俯く臨也に視線を向けた静雄は、煙草を吸いながら自分でもやり場に困っている苛立ちを整理していた。


俺、頭おかしくなったな。絶対、いやいやいや、何でよりによって臨也なんだよ、くそ、ムカツク顔しやがって、鬱陶しい声上げやがって、忘れられなかったらどうしてくれんだ。つーか何で俺助けたんだ?善がって苦しむ臨也なんてそうそう見れるものじゃない面白い見世物じゃねぇか。なのに、何か、正直胸が騒いだ、高揚として、組み敷きたいと思ったとか…。絶対アレだ、スーツケースに毒薬とか仕込んでたんだ、空気散布的な、ノミ蟲ならそれぐらいしててもおかしくねぇ。
でないと説明付かないだろ、なんで、俺は、臨也なんかに欲情した?ありえねぇ、しかもこいつならって…何だコレ。ああくそ、認めねぇ、絶対認めねぇぞ。


お互い気付けばひたすら殺意と情欲を称えた瞳で睨み合っていた。思いの裏側を悟られまいと、余裕の笑みを浮かべる臨也。それに挑発されたのは、思いの裏側に翻弄され頭を抱えていた静雄。殺伐とした空気ではあったが、何故かいつもの殺し合いを終えた後のように心は苦々しく充実していた。








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