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箱ヅメ5 R16




「フュッ…ふぅ、ふっ…!」

まさか自分が外した猿轡を、また装着させることになるとはな。そんな事を思いながら、静雄は目の前であられもない姿態を晒している天敵を見ていた。目隠しはされておらず、熱っぽさと殺意の篭った臨也の瞳と眼が合う。猿轡は異常に臨也に映えていたというのもおかしいが、それほど臨也のあのうざったい口が塞がれているのに静雄は高揚としていた。

「ずっとそうしていれば、それなりに仲良く出来そうなのによ。」

そんな恐ろしい事を真顔で、しかも若干楽しそうに言うものだから臨也は全力で逃げ出したくなる。しかし薬に疼く身体も、目の前の怪物もそう易々と解放してくれないという事は分かっていた。目隠しはされていないので現状把握はできたが、それは更に臨也を苦しめ、違う意味の恐怖感に支配されるだけだった。
全裸なのはもういい、そこは諦めた。しかし熱のせいで屹立している自身まで見られているという嫌悪感は拭えない。普通の成人男子なら笑うか馬鹿にされるだけだろうが、よりにもよって天敵のそんな姿など面白みも無くただ鬱陶しいだけではないのか。なのに何故か余裕の無い表情で食らい付いてくる金髪の獣に、シズちゃんが間近にいるとやっぱり怖いな、理解不能、と臨也は身震いした。

「ヒュッ、フュー…ッ!ヒュッ!?」

突然、臨也の身体が強張る。熱に乗っ取られた頭で完全に油断していた臨也は、まさかの静雄の行為に目を見開いて混乱した。静雄の片手によって頭の上で押さえつけられた両手を振り解こうと抵抗する。指を入れられたのだ。あの、シズちゃんという天敵に。そうなることはわかっていて誘ったはずだったが、いざそういう展開が現実になるとさすがの臨也も混乱せずにはいられない。

「ヒュッ?!フッ、フューッ…!?」

恐らく何か抗議しているのだろが、猿轡のおかげで聞こえない事に静雄は感謝し、言葉にならない臨也の声をただ聞き流していた。違う意味では頭に強く響いていたのだが。
今更あいつの言葉に萎えても、止められても困るからな…。にしても抵抗感なく入れれるもんなんだな、意外だ。普通もっとダンプ並みの抵抗感に押し潰されるかと思ったが、よりにもよって臨也のノミ蟲だし、いや臨也だからか?…あー、あれだ、相当頭おかしくなってんだろ、臨也と同じ様に。
そんな事を思考しながら、内壁を弄っていた指をくっと折れば、面白いくらいに臨也が跳ねた。

「ッー!!?フュ、ヒューッ、ヒュウ、ゥッ…!」

その反応が面白かったのか、静雄は再度くっと骨張った指を折り、その一点を攻め立てる。声にならない声は猿轡に阻まれ十分に発することは出来ず、苦しげな息は臨也の頬を紅潮させていく。疼いていた熱の元を直に刺激されたようで、そこに指が擦れる度臨也の神経に微電流が走った。熱は体を暴れるように駆け周り、臨也の嫌悪感と理性を犯していく。

「ヒュッ、フー、ッヒュ、ヒュッ!」

乱れた呼吸のリズム、静雄はその度に胸の高揚を高まらせる。自分の手であの天敵の顔を歪めているのだという事実にすっきりするし、何よりあの臨也を、いつも臨也が自分にしているように掻き乱してやれる事が嬉しかった。存在自体に嫌悪しているし、その顔を見るだけで怒りのリミッターは一瞬で吹き飛ぶけれど、その口が黙った臨也の顔は正直嫌いではないのだ。

「お前、顔だけはいいもんな…やべ、何か変な気分になってきた。」
「ふ、ッウ…ヒュゥ…ッ!」

やっぱりシズちゃんは理解不能だと、快楽の波に揺れる意識の片隅で臨也は眉を寄せた。静雄が変な気分になっていたのは実際の所スーツケースから臨也の声が漏れていた時からなのだが、今やっと自覚したらしい。それよりも何故そういう気分になるのか、そんなに俺が乱れているのは目に毒か、そんな事を思いながら目の前の天敵をぼーっと見ていると、眼が合って、そして逸らされた。あのシズちゃんが頬を僅かに紅潮させているのに気付き、臨也は自分の頭はとうとうおかしくなったのだと涙目になる。

「ヒュッ、ふぅ、―ヒュゥ、う!」

今、自分の名前を呼ばれたと静雄は確信した。わかるのだ、わかりたくもないのに何故かわかる。今日何度目かもわからない舌打ちをし、臨也に入れていた指を増やして熱を促してやれば、

「フュッ、ッ―――!!」

びくんと背を仰け反らせ、臨也は二度目の白い飛沫を弾けさせた。色付いた胸を上下させ、猿轡から浅い呼吸が荒く聞こえる。白濁が自分の服を汚したことは気に留めなかった静雄は、憎き天敵の表情を伺う。その瞬間、スーツケースを開けた時のあの衝撃に襲われ、静雄は凍り付いた。

「臨、也…?」
「ッ…!」

臨也は泣いていた。あの人を蔑むような瞳は同一人物とは思えない色で潤み、その熱に堪えきれずはらはらと頬を大粒の涙が伝う。臨也には似ても似付かないほど扇情的に映り、静雄の理性を焼き切るには十分だった。

「あー…」
「ッヒュ、フューッ、ひゅ、ヒュッ!」

恨めしそうな剣幕で必死に言葉を紡ぐ臨也に、静雄は臨也の意図することがわかり猿轡を外してやった。臨也は涎が輪郭を伝うのも気にせず大きく咳き込み、文句を言おうと静雄に向き直った瞬間、その口は再び塞がれる。

「んっ…ふ、ぁ、…んーっ!」
「…はっ、…!」

息をつく暇も無く荒々しく口付けされ、臨也の息苦しさと涙は止まることをしらない。酸素不足で瞳がとろんとしてきた頃、やっと唇は離れていった。文句を言う気力も湧かず、臨也は静雄を思いっきり睨み続ける。

「…お前が悪い。」
「は…、はぁ、シズちゃん…最悪だね、最低だね…なんなのもう…!」

生理的に流れる涙が鬱陶しく顔を顰める臨也は、切羽詰った顔で自分が悪いとほざく目の前の理解不能な獣を見据えた。

「もう…苦し…はぁ、は……ッうぁ、や、もー」
「…どうした?」
「くっそ、ぁあ…っ、は、まだッ…足りないみたい、で…」

抗議しようとしたのだが、臨也はまた蠢き出した薬の熱に身体をうずうずと捩らせ、きつく唇を噛んだ。天敵の前で涙を流し、挙句止まる事を知らず未だに求めるみっともない生体反応に自分が疎ましくなる。死にたくなるような現状だったが、目の前の男は違った。

「足りないなら、挿れるぞ。」
「そういう事ダイレクトに言わないでよっ…相手、俺なんだよ?」
「…俺、頭おかしいんだよ、今。」

弱い耳に、静雄の吐息がかかった。

「お前ならいいかもとか、思ってんだよ。」

その声に臨也が吐きそうなほど甘ったるい声を上げたと同時に、ぐっと猛々しい熱が挿入された。突然の圧迫感に臨也の視界はチカチカと瞬く。声を抑えるなど崩壊した忍耐力などではできるはずもなく、甲高い声が上がったのに寒気がした。

「ひぁ、あっ、あ、シズちゃ、ッシズちゃん、それッ…!」
「あぁん?何だ、ッ…!」
「や、嫌だっ、きもち、わるい、ぃあ、あっ」
「…ッうそつけ」

がくがくと揺れる身体とシズちゃんという嫌悪する存在から与えられる巨大な快楽に、臨也はこの上なく震えた。何に一番震えたかというと、静雄の言葉だ。何故こいつは俺を受け入れたのだと、ただ拒否感が拭えない。

「シズちゃ、嫌…!なんで、なん、でっぁ、あ!」
「ごちゃごちゃ、うるせぇよ…ッ!」

改めて、何故こんな行為をこの天敵に許しているのか、何故この天敵が俺を抱いてくれたのか、考えようとも余裕はない。ただ心地よい嫌悪感と気持ち悪さに、臨也と静雄はお互いを殺す勢いで熱を奪い合う。死を願う仇敵を、それこそ自分の手で殺していく感覚。臨也は薬とは別の所で、自分がどこか楽しげに殺し合っているのだと理解した。

「あぁ、あっ俺も、頭、おかしいのかも…!」
「じゃあ、おかしいんだろ…!」
「はぁ…そっか、あっ、だから、シズちゃん、なのに…っ、気持ち良いんだ…」

その言葉に静雄は気持ち悪そうにくっと息を詰める。快楽に魘されながら笑った臨也に怒りを覚え、本能のままに憎い唇を噛み合った。今自分たちに起こっている生体反応があまりに人間的で馬鹿げているのに笑いながらも、あまりに人から懸け離れた衝動は抑えられない。二人はそんなお互いと自分自身が理解できず、呆れ、胸を焼くほど嫌悪し、受容し、理解した。
そうして、ぬるい嫌悪感とざらりと撫でつく理解不能な満足感に身を委る。







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