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a.m.12:46 side:W




「ドッタチ〜ン!これ、これどう!これ良いと思うんだけど!」
「いい加減にしろ狩沢!!」

ワール●バザールの屋根の下、男性の一喝が響き渡る。否、周りに迷惑にならない程度の叫びだったので、響き渡ったわけではないのだが。そもそもその男性は女性に意味もなく怒鳴りつけるなど決してしないどこまでも紳士な兄貴分だったので、これは完全に女性の方に非があるパターンであった。

「いやでも絶対こっちの方が似合うよ〜ケモ耳ケモ耳!ドタチンならやっぱりティ●―耳とか王道ならやっぱり王様!?いやこの際フリル付き王妃様の耳でも良いと思うよ〜ドタチンはどれがいい?」
「どれもよくない、俺はつけないと言ってるだろ…あれこれキャラのカチューシャを持って来ては俺に試着してくるのはいい加減やめろ!」

今まさに狩沢から試着させられようとしていたピ●レット耳をドタチンが拒絶し、狩沢は不満げな声を上げた。色んな種類のキャラクターカチューシャが置いてある店にワゴン組と呼ばれるドタチンこと門田京平、狩沢絵理華、遊馬崎ウォーカー、渡草三郎の4人はいる。遊馬崎の姿は見当たらないが、あれよこれよと狩沢が持ってくるカチューシャの試着会に、ドタチンはうんざりとしていた。しかし相手が狩沢であるから、無下に退けたりもしないドタチンの優しさは彼の寛容さを表している。それにつけこむ狩沢を横目に渡草は何故自分達がこんな所にいるのかを思案していた。
ワゴン組がこのテーマパークへ来るに至った経緯はごく単純で、カズターノがいつもお世話になっている礼だと無償でチケットを人数分くれたからだった。入手方法については割愛したい。それは譲り渡すというよりもほぼ押しつけに近かったが、貰ったなら行こうよと狩沢と遊馬崎がノリノリだったので、池袋の喧騒からの息抜きとして訪れているのだ。しかし、既にあの池袋の喧騒が恋しいと思っている者若干名。
そういうわけで、狩沢の手によってドタチンの頭に魔法使いバージョンの王様のカチューシャがつけられた現在。因みに狩沢の頭には赤いリボンが際立つ王妃様のスタンダードカチューシャが既に装着済である。狩沢の全身黒服にはその赤は映え、耳もあいなって正直まとまり具合は最高に可愛かった。因みの因みに補足として、王様はミッ●ー、王妃様はミ●ーとして表記しています。

「う〜ん、ドタチンは何でも似合うねー」
「もう勘弁してくれ…ところで、遊馬崎はどこだ?」

ドタチンが試着させられていたカチューシャを外し、辺りを見渡す。が、遊馬崎の姿は相変わらず見当たらない。

「ゆっまちならー、とても素敵な素敵なお買い物の最中だよ〜」
「は?遊馬崎が?意外すぎるだろあいつ…」
「まぁ、意外だが…遊馬崎の事だから何をしでかすかな」
「そんな心配しなくて大丈夫だよドタチン!実は今ゆまっちと一番似合うカチューシャ選び対決してるんだよー、で、私が選んだのはコレね」

狩沢が嬉々として頭に装着された王妃様のカチューシャを指差す。何度も言うが、本当に似合っていた。

「負けた方が自腹きって新しいラノベ開拓をする事になってるの。勝った方はその開拓によって見つかったお勧め本を無償で借りられるっていう、ね!」
「お前ららしい…」

トレードマークの帽子のずれを戻しながらドタチンが溜息。先程パークに入ったばかりだったが、既に渡草は疲労から聖辺ルリにはどのカチューシャが似合うだろうかと妄想し始めているし、ドタチンはこのテーマパークという娯楽施設の雰囲気がむず痒く馴染めずにいた。その上狩沢のこれときた、正直疲労している。もう一度ドタチンが溜息を吐こうとしたその時、

「お待たせしました〜!」
「す〜ご〜い〜や〜つ〜!ほほうゆまっちぃ、まさか鬼の手を選んだりしちゃったりして?」

振り返る一同、遊馬崎の姿を捕らえた瞬間、狩沢は満面の笑みを浮かべ、ドタチンは目を丸くし、渡草は首を傾げた。

「ゆゆ、ゆまっち何ソレ!何ソレ何ソレ超似合ってる何ソレ!まるで元から体の一部でした的な二次元眼鏡男子によくある現象じゃない!」
「遊馬崎…お、お前、何だその…異様なまでの違和感のなさは…!」

現れた遊馬崎は狩沢との勝負通り頭にそれをつけていた。頭につけるものであれば何でも良かったので、カチューシャでも飾りでも良かったわけだが、遊馬崎がチョイスしたのは帽子だった。黄緑色の、帽子だった。

「え?何だ?何にそんな反応して…っああああ!!」

思わず店内で大声を上げた渡草をドタチンが引きずり、迷惑にならない様店内から出る4人。そう、渡草は気付いていなかったのだ、あまりに似合い過ぎて違和感の無さ過ぎた、遊馬崎がかぶるリトルグ●ーンメンの帽子に。

「いやぁ、驚いてくれて嬉しいっすよ〜!自分でもこの3つ目と目が合った時には何かしら運命を感じました!まるで俺に出会うべくして生まれた存在…ってそんな大それたことは言えませんけど、きっと二次元少女が空から降ってきたらこんな感じなんすかねぇ〜!」

異様だった、異様なまでに遊馬崎に似合っていた。渡草が気付かないのも無理はないほど違和感が無いのだ。リト●グリーンメンとは、トイ●ト―リーに出てくる3つ目を持ち頭に一本触角が出ている小柄で黄緑の宇宙人である。その顔部分をざっくりあしらって被るようになっている帽子は、遊馬崎の頭に見事フィットしていた。渡草は気付いた途端固まり、口をぱくぱくさせている。ドタチンさえも珍しく驚いていた。狩沢に至っては、

「私でもこれは結構似合ってると思ってたのに…ゆまっち強い、強過ぎるよ!ロールプレイングに出て来るキオスクのNPCみたいな感じ?はたまた作者近影を取るのにネタに困って選ばれる類のものだよそれは!その発想はなかったよ!」
「狩沢さんこそ似合ってるっすよ!それ、王妃様のスタンダードですよね?王道じゃあないっすか!配色可愛いじゃないっすかー!」

きゃっきゃきゃっきゃとお互いを褒め合う二人に、ドタチンは落ち着けと促す。とりあえずこの勝負は明らかに遊馬崎の勝ちなので、どうやらライトノベル開拓は狩沢の役目となったようだ。彼女にしてみれば正直自腹きるくらいなんら問題はないのだが。

「とにかく、これからどーするんだ?」
「そうだねぇ、ここは絶叫系ライドを制覇していくしかないんじゃない?」
「いやいや狩沢さん!ショーを制覇していきましょうよショーを!完全なる二次元のお姫様に会いたいっす!」

少々居心地の悪そうなドタチン、黒い耳に赤リボンが目立つ狩沢、頭がリトルグリー●メンの遊馬崎、やつれ気味の渡草は、準備は整ったとしてもこれからどうするかを迷っていた。そもそもこのパークもアトラクションも雰囲気も彼らには浮いているように思えて、自分達のホームグラウンドは池袋なのだという気持ちが一層強くなっていくだけなのだ。
そんなこんなで次の目的地もわからないまま、4人がアド●ンチャーランドへ向かおうとしていたふとその時、狩沢の鋭い目はそれを見逃さなかった。

「わぁ!チェシャ猫がいるー!」
「どういうことだ?」
「あれですね狩沢さん、不思議の国に迷い込んだア●ス的なトリップに入っちゃったんすか、ここならそれも出来そうですねぇ!」
「そうじゃなくて、チ●シャ猫がいるの!しかもイザイザの!更に隣にはシズシズもはっけ〜ん!」
「「「はぁ?」」」

大の男三人が一斉に受け入れられないといったような声を出し、一斉に振り返る。その瞬間自分達が目に捉えたものに、三人はここは本当に夢と魔法の国なのだと理解した。

臨也と静雄がいる。しかも臨也にはチェ●ャ猫の耳と尻尾がついている。その二人が肩を並べるとまではいかないが、一緒に歩いているのだ。ここはどこだ、そうだ某テーマパークだ。
どういうことだ、これは。

「嘘だろ…あー、ここはどこだ…」
「いやいやいや、無い無い無いないですって!それはないですよどうやら魔法にかかってしまったようです!という事はイオナズンとか唱えられるってことじゃないっすか?!」

声をかけようと駆けだしそうになった狩沢を遊馬崎ががっちりホールドする。

「狩沢さん目覚めて下さい、ここが夢と魔法の国だからって魔法なんか使わないで下さい!とうとうあなたは妄想を三次元にできる能力を身につけたんっすか!」
「いやでもアレ、イザイザじゃん!耳に尻尾のセットまでつけてノリノリかと思ったら何かめっちゃ辛そうにしてるけど大丈夫なのアレ?今にも発狂しそうだよ?しかもシズシズ、お土産袋持ってる!あのシズシズがお買い物だって可愛いねぇ、でもそれ以上にあの猫耳は美味しいしそもそも二人ってどれだけBLしてるのもう」
「狩沢さぁぁぁん!!落ち着いてあれは幻覚っす!有り得ないっすよあの犬猿の二人が一緒に、しかも五万とあるテーマパークの中で何故敢えて一番あの人達と無縁のこのテーマパークにいるんすか!ひぃぃぃ明日世界が滅ぶ予兆としか考えられないっす!」
「落ち着け、とりあえず落ち着け」

ドタチンが宥めるも、彼自身も相当この事実は受け入れがたい様で、かなりしかめっ面になっている。向こうは自分達の存在には気付いていないみたいだが、ここで彼らに近付くのはこのテーマパーク崩壊を意味していたので、刺激しない為に近付かない方が得策とドタチンは直感する。遊馬崎と渡草に至っては、先のリトル●リーンメンが遊馬崎に似合う異様さと同じほど異常な光景を到底信じられないようだ。無理もない、あの臨也と静雄なのだから。

「遊馬崎、渡草、そして狩沢」
「何っすか…!?」
「な、何だ急に…」
「ん〜、何なにドタチン」

ドタチンの目が据わる。過ぎ去っていく臨也と静雄を背にし、ドタチンは一言そう告げた。

「何も見なかった事にしろ」

これぐらいで疲れているとは何て事だ、今ならこのテーマパークを存分に楽しむ事が出来ると思う。一同は天変地異が目の前で起こった様な光景を忘れようと、軽快な音楽が心地よく蔓延するパークを清々しく歩き出した。









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