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箱ヅメ4 R16




部屋には、水音と噛み殺した呼吸だけが響いていた。

どうしてこうなったと言われれば、正直どうしてなんだと思う。二回目の状況把握になるが、スーツケースに臨也が何とも刺激的なオプション付きで入れられていて、出してやったと思ったら熱い身体で馬乗りになられた上ナイフ突きつけられた。そして許可も無しに人様の家の風呂場に行こうとしやがったら体抱えて突っ伏して、潤んだ瞳で悔しそうに…あー、そういうアレな感覚に耐えていた。そんな臨也。
びやく、ねぇ。媚薬とはまぁそりゃあよぉ、俺もこういう仕事だから知らなくはないし、結構きついのもあるってのは聞いてたし、それが抗えないものだってのも分かってる。しかし何で臨也なんだ、俺の家で、俺の前で。そういうアレに耽っているのは。というか何で俺はこんな直視してるんだ。というか何で許した。
自分でもわからねぇよ、ただ俺の高揚感が見たいといったんだ。

「はっ…、ッ、ぁ…ふ」

静雄に見られないように体を縮め、静雄に聞かれないように声を必死で殺す。泣きたくなるような屈辱と嫌悪感に、臨也は真っ赤になるほど指を噛んでいた。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち良い。
間逆の感覚が同時に襲ってくるというおかしくなりそうな快感に、臨也の忍耐力は脆くなっていく。しかしそれでも気丈な精神はどこかで冷静に状況の把握、そして受容に努めだした。

あー、予定外だ、これは、この展開は完全に想定外、あ、これならやっぱり裏方で傍観してればよかったか、今回の仕事は、もう、んっ、えっと、そもそも偶然が、俺を愛してくれなくて、なぜかシズちゃんのもとに送られたのか、なんでっ、ッあ、何でよりによってシズちゃんなんだよ、しかも身体動かないし、はぁ、熱いし、きついな、もう目の前とか最悪、見られてるとか、くそ、ぁ、あ、まるで、視姦じゃないかっ、…やっぱシズちゃん、何考えてるか、わかんねぇ…っ、仕方ないんだって、仕方ないんだって、生理現象、だから、あ、仕方ない、だから恥辱だと思うことは無い、男同士だし、人間として当たり前の生体反応、ふぁ、薬による誘導、しかた、ないのさ、ねぇ、そうだろ?

全ては当たり前の身体反応だと割り切るように意識の片隅で努める。でないと嫌悪感に潰されてしまいそうなのだ。臨也は指を噛みながら、ぎこちない手付きで自身の快感を募らせていた。

「ッん゛……ふ、ぅ…!」

自分のこの行為がどれだけ無意味なものかひしひしと感じる度笑いが込み上げる。もどかしいのだ、ひどく。こんな取るに足らない快感では熱を解放できるはずがないのだ、それでも手が止められないのは、淡い快楽でさえ必要とする貪欲な薬の生理現象だろう。

「ふッ、ふーっ…!」

シズちゃんという天敵が近くにいるという事も忘れて、ただ自慰に耽っている臨也。卑猥に響く水音さえも抑えることを忘れ、巡る熱と嫌悪に身体を震わす。自分でしているのだから良い所など分かっているはずなのに、それさえもうまく快感に変えれないのは、自己誘導が難しいほど余裕がなくなっているからだろう。

「ぁ、っ…はぁー、はー…ッ」

吐息に艶が出ている事に臨也は気付かない。ただ、諸にその声に支配されることとなった静雄は、強く、強く、その臨也の声に耳を侵されていた。そんな事は意識の外側に追いやっているであろう臨也は、昇り詰める事だけを考え自分の先走りに濡れる手をぎこちない手付きで上下させている。そして疼く熱が駆け上がってくるのと共に一際身体を強張らせれば、

「ッ―――!」

二、三度身体が戦慄いたかと思うと、臨也は自分の手の中に白濁を放っていた。ぬるい感触に身体がぞわぞわと粟立ち小さく口元を歪める。が、すぐにそんな余裕さえも薬によって犯される神経に奪い去られた。疼く熱は更に強まっていくのだ。その感覚に臨也は僅かな恐怖さえ覚え、それと同時に限界を迎えた忍耐力はやるせなさに悲鳴を上げる。

「ッぁあ、もう!なんで、収まらないんだよ…ッ!くそ、はぁ…ぁ、熱ぅ、う…あっ」

凭れていた壁から崩れ落ち、再度突っ伏して悪態をつく。臨也はどうにもならない生理現象を憎み、珍しく声を上げ白濁に濡れていない方の手で拳を握った。自分の思い通りにならないというのは、かくも気に食わないものだったと改めて認識させられる。

「たりなッ…足りない、よ…!」

あらぬ懇願の声を上げてしまう。ぞっとした嫌悪感は疼きを強める熱に相殺された。そこでやっと、そんな臨也を先程までじっと視姦し続けていた静雄が重い腰を上げる。その物音に大袈裟なほどびくっと身体を震わせた臨也は身体を縮めた。見られたくない、気持ち悪い、肌を刺すような静雄の視線が分かり吐きたくなった。

「手前、辛いか。」
「みたら、わかるだろ…!」

突っ伏したままの臨也がきっと静雄を睨み上げた。熱に苛まれた瞳では、いつもの苛立たしさは半減される。静雄は大きく溜め息を吐いた後、臨也の突っ伏した身体の上半身を引き起こした。

「やっ、さわッ…るな、今、やっ、あっ」
「今、お前の大概緩んでおかしくなった頭と同じくらい、俺の頭もおかしくなってやがる。それを踏まえて、だ。一度しか言わねぇ。いつもの無駄口を叩く余裕があるなら今すぐそのままスーツケースに詰め直してやる。俺も余裕がねぇからな。だからだ臨也、よく聞け。」

いつの間にかサングラスを外した静雄の双眸が臨也を射抜く。陳腐な表現をすれば捕らわれた、とでもいおうか。その瞳の中に獣を見た臨也の耳元で、静雄の低い声が響いた。

「助けてやろうか?」

腰がびくんと跳ねる。耳が弱いと知ってかしらずか、それは今の臨也には十分過ぎるほどの誘惑だった。嵌りたくない、世界一嫌悪している奴になど。僅かな自己意識の中で嫌悪と熱がせめぎあう。しかし熱は静雄の声に比例して再度身体を支配する。自分で、自分のプライドを嘲笑したのが引き金だった。

「シズちゃん、シズちゃんっ、足り、ないんだ…はっぁ、たすけ、…ッ!」

自分でも寒気がするほど、甘い声が出た。静雄に青筋が立つのが見え、あ、嫌悪してる、殺されるかな、とどこか靄のかかった意識の中で臨也が思う。しかしまたも予想に反し、引き離されると思った臨也の身体は静雄に引き寄せられ、艶やかな呼吸を塞ぐべく静雄のそれが重ね合わされた。

「んっ…ふ、ぅ…ふっ」

やはりこの男はまったく予想がつかないと、臨也は腹立たしささえ覚える。そんな最中、早急に衣服を取り払われ、一方的なそれに更に腹立たしくなった。

「ん、ふぁ、ッ……やっぱり、最悪だっ…!」

唇が離れたばかりの荒い呼吸のまま臨也は先程の甘えを早速否定するも、静雄にはもう遅いらしい。薬で火照った身体を持ち上げられ、臨也は思わず静雄の胸にしがみ付いて漏れそうになった声を押し付けた。そんな臨也の様子に静雄は舌打ちし、そのままベッドへ向かう。自分の胸の中で震え声を噛み殺す天敵をベッドに放り投げるのも躊躇われ、迷いながらも刺激にならないようにゆっくりと臨也をベッドに下ろしてやった。

「…おい、手前」
「…ッ…ん、」

みれば、臨也は静雄のシャツを掴んだまま放そうとしない。悔しそうに俯くも、その手は間逆の意思を表していた。それに気付いた静雄は苦笑し、嫌悪も苛立ちも急速に和らげられていったのだが、

「シズちゃ、やっぱ…無理っ、だって、怖いし、シズちゃんとかやだ、ホントッ…は、ぁっ…ねぇ、シズちゃん、シズちゃ…ッ、やった、ことあんの?あ、ぁあ、っ…嫌だ、苦しいッ…けど、シズちゃんは嫌だなぁ…っ」

目の前で疼く熱に震えている一方、現状を後悔しながら指を噛み始める臨也の減らず口に、静雄は和らげられたはずの苛立ちを沸騰させられる。無言のままシャツを掴んでいた臨也の手から逃れ、臨也をベッドに残したまま背を向けた。

「無駄口、叩きやがって…」
「っふぁ、シズちゃ…!?…ごめ、ッ…いや、やだ、ぁあっもう!どうしろって、言うんだよ…足りないって、ねぇ、シズちゃんッ…!」

嫌悪感に魘されつらつらと出てしまった言葉に嫌悪する。シズちゃんに縋るなんて最悪だ、けれどこのまま放って置かれる方が悪夢の如く最悪だ、それを痛いほど理解させられているから敢えてプライドを捨て薬のせいだと割り切ったのに、自分の犯した失態によって逃した機会を臨也は悔いた。

「ん、はぁ、あっ、シズちゃん…お願い…ッ!」
「何みっともない声出してんだよ手前。」

気付けば、目の前に静雄その人がさらりとした顔で立っていた。それに安堵した自分の感覚を恨めしく思ったが、臨也は熱に浮かされた瞳で我慢しきれないというように静雄を見上げる。が、眼が合った瞬間、疼く熱と間逆の冷や汗がうっすらと滲んだ気がした。そして更に追い討ちの如く、先程から様々な間逆の感覚に襲われ続けていたため、臨也は目の前のものから逃げるという選択肢さえ浮かばなかった。

「臨也くん、手前うるさいです。」

笑わない瞳で青筋を立たせた静雄が手に持っていたのは、猿轡。スーツケースに臨也が梱包されていたときのオプションで使われていたボールギャグだ。臨也は息を荒げている口元を引き攣らせ、やっぱり最悪の展開だと、自分の算段の範疇外にいた偶然と薬とこの男を熱に朦朧とする意識の中で呪った。






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