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箱ヅメ2




別に、何か失態を犯したわけじゃあない。別に何か騙されたわけだとか、別に何かしくじったとか、誤りがあったとか、そんなあるまじき事をしたわけじゃないんだ。これも、この後へ続く仕事の一環だと考えて欲しい。
ただ、少し悔しいというか、あまりに自分が考えつかなかった展開ではある。予想できなかった事は二つ、自分を処理する為送りつけられるであろう相手と、自分の喉を嚥下していった小さな異物の感覚だけだった。



取引は夕暮れ時だった。相手は不法滞在の女性を雇う風俗系の取締りで、様々な違法薬の販売ルート云々についての情報提供だった。でもそれは相手にとっての表向きで、俺の本当の仕事ではない。
俺の本当の取引相手は、この挨拶もせずに商品販売をしている取締り達にお灸を据えてやりたい、池袋に腰を置く“絵画販売代理店”様だ。というわけでその他の仕事諸々含め、この取締り達と対峙しているわけ。そして更に、この取締り達が“折原臨也が取引している相手が自分でない事”を理解しているということを、俺も知っている。
早い話、これは罠なのだ。
で、何で俺がそんな罠に易々とかかってあげたのかと言うと、これも仕事だからである。この後来るであろう怖い人達への情報提供と、幾つも重なった仕事の為であるが、細かい事は伏せておこう。やっぱり、その本当の取引相手に知られてはいけない情報や仕事があるわけだからね。情報屋の折原臨也は全ての取引相手に平等に、だから。
ああ後、やっぱり例の趣味、っていうのもあるかな。

そんなことでうまく交渉する振りして、話術で巧みに情報を引き出して、相手が罠というのを俺に示させて、更にその上で俺は俺であるが故色んなものを吐き出させて、あっさりと捕まった。
捕まった所で問題はない。この取締り達に俺が殺せないのは勿論のこと、俺が関わっていることを知られてはまずいのだ。うまく処理したいが為、処理専門の人達へ俺を送ろうという魂胆なのだが、取締り達が持っている処理専門ルート、そのどの人達に送られるとしてもその人達は俺の仕事仲間でしかないという事を、取締り達は知らない。

というわけで、俺は暴行は受けなかったが、というか相手は俺に暴行できないわけだけど、俺は乱雑に梱包され送られたというわけだ。おまけに猿轡まで丁寧についてきた。はは、冗談じゃない。
まぁでも仕事的に抵抗しちゃいけないわけで。自分がこんな風に実際何かしらの害を受けるのは滅多にないことだし、本来なら俺は裏の裏の裏の人間なので表に立つことはないけれど、たまたま仕方なかったんだよね。保身に事欠かさない俺としては珍しいことだけど。
うん、だから、これも含めて複雑に絡み合ったお仕事と、趣味への僅かな努力って事なのさ。

だからこのまま何もされずに処理専門ルート上の俺の仕事仲間に送ってくれれば良かったんだけど。どうやら相変わらず偶然は俺を愛してくれないらしい。



スーツケースの中での旅はおよそ3時間。
の予定だった。抵抗せずに薬品を嗅がされ、体の力が抜けたと同時に手足を拘束される。それぐらいなら別に全然構わないんだけど、さすがに猿轡を出された時は嫌になったね。だって呼吸しにくいもん、あれ。でもまぁ既に拘束されていたから結局噛まされたわけだけど。それと正直、スーツケースに詰められるのだから目隠しは意味ないと思った。それも猿轡されていたので後の祭り状態だけどね。
手足を拘束されていたといっても、恐らく俺だったら縄抜けできる。けどスーツケースというあまりに狭い空間の中では身動きすることもできない。身を捩ることさえ容易ではなく、内側にあたる肩が痛かったくらいだ。結局俺には配達先で身を自由にする手段しか残されていなかった。
それでも大丈夫なはずだったんだよ。そのまま何事も無く配達されればね。でも俺が詰められたスーツケースを乗せた、取締り達の下っ端の使えなさといったら。俺はスーツケースに詰められているわけだから実際に見ていた訳ではないけれど、恐らく何かに巻き込まれたみたい。スーツケースの暗闇の中ではくぐもった音しか聞こえず全てを把握できるわけではないけど、衝突音と騒々しい叫びが幾らか聞こえてきたので何かの事件、もしくは俺の予想上に無い人物達、俺の予想を裏切ってくれる人物達に巻き込まれ、下っ端達は所定のルートを大きく外れたのだろう。そして処理しなければならないスーツケースの処分に困り、手短な処理専門ルートに駆け込んだが、どこかに放置していったか。

後者だと大変困るわけだ、俺が。

どっちにしろどういう経緯で俺の詰め込まれたスーツケースを手放したか、処理を任せようとしたか細かな事はわからないままだったけど、どうやら今の俺は前者の状況らしい。何かが近付いてくる音が聞こえたから。

スーツケースの暗闇に詰め込まれてから時間の感覚は曖昧だったけど、恐らく俺が罠にかかってあげてから3時間も経っていないと思う。五感は頼れないので僅かな音を頼りに状況把握をしようとこう色々語ってきたわけだけど、実は俺は今、大変意識が朦朧としている。
うとうとというか、眠たいわけではないけれど、息苦しいというか、まぁ息苦しさは色んな要因があるけれど。体がだるくて熱くて、頭が働かなくなってきてるんだ。
猿轡をされる前に、男達がしてやったという様な顔で俺に無理やり飲ませた薬が原因だろう。薬の耐性はこれでも色々つけているつもりだからどんな薬でも多量でなければ精神は持つはずだけど、これはどうだか。
まずい。非常にまずいな。

そう言ってる内に、ほら、誰かがスーツケースの前で足を止めた。






これが2時間38分前から現在に至るお話。





あきゅろす。
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