短編集 その@
本屋 (手塚国光)

「んっ…もぅ…ちょっ…と」

背伸びをして、懸命に手を伸ばす少女。
触れそうで触れられない本。
指先が、小さく震えている。

無理だ、と、云う事は判っているだろう。
なら、脚立を探せば良いものを。

そう思い、常備してある脚立に目をやれば。

―――――…成る程。

その脚立には、老人が座っていた。

足を押さえている事から、足を痛めているのだろう。

自分が使うから、と、云えなかったのだろう。

「んんっ…」

再び、背伸びを繰り返す。

「後、ちょっ、…と」

必死な表情。

彼女の目的だろう本を、横から取る。

「あ…!」

「これで良いのか?」

そう云って差し出した本。

「まあ、手塚さん。ありがとうございます。この本です」

にっこり、と、嬉しそうに笑い、手渡した本を胸に抱く。

「詩集か?」

「はい。猫を主題にした詩集なんですよ」

心底、嬉しそうに笑う。

「本、好きなのか?」

「はい。それでは、ボク、精算して来ますね」

再び、礼を述べると、レジに並んで、精算を済ませる。

彼女は、精算を終えた本を見て、心底、嬉しそうに笑って外に出る。

だが、外に出るや否や、彼女は、ナンパの襲撃に合って居た。

「…………」

国光は、小さな溜息を吐くと。

「桜井」

「はい…?」

ナンパしようとする男達は、国光の姿を見るや否や、蜘蛛の子を散らす様に去って行く。

「誰か迎えに来させたらどうだ?」

「…今日、携帯電話を忘れてしまって…

「…仕方がない。送って行こう」

「でも…悪いですから…

「…別に構わない」

そう云って、一緒に歩き出す。



ほんの少し、彼女の好きな物が判った。

時々、ここに足を運べば、彼女に逢えるかも知れないな。





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あとがき

手塚は、知らない間に自然に、と、云う感じかなぁ。
"好き"とか云わなそうf(^^;

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