短編集 その@
名前で呼んでよ(越前リョーマ)
何時でも、敬語。
誰にでも、笑い掛けてる。
でも、俺に見せる笑顔と、何処か違うのは、俺の気の所為?
「…ん、…さん、越前さん?」
呼び掛けられて、驚いた。
「如何なさいましたか?」
心配そうに見つめて来るのは、氷帝テニス部マネージャーの桜井奏荼で、俺の彼女。
「別に…」
じぃ、と音がするかの様に見つめられて、急に恥ずかしくなったのか、すっ、と奏荼から視線を反らした。
「あの、思っている事を口に出して頂かないと、ボクには判りません…」
困り果てた様に云う奏荼。
「だから、何でも―――…」
「越前さん。もしかして、ボクの事、お嫌いになられたのですか?」
「―――!」
哀しげな、眼差しが居抜く。
「お気に障る様な事をしたのでし…」
「違う!!」
リョーマの声に、奏荼は驚いた。
「それは、絶対に違うから」
慌てた様に云うリョーマに、奏荼は「良かった」と、小さく呟いて、安堵の溜息を吐いた。
「ねぇ、奏荼」
「はい。何でしょう?」
ふわり、と、柔らかい笑みを浮かべる。
「俺達、恋人同士だよね?」
「え…、あ、はい」
かぁあ、と、頬を紅く染めるその様が、とても初々しい。
そして、恋人だ、と頷いてくれた事がとても嬉しい。
「俺の機嫌、治したいんだよね?」
「はい。勿論」
「だったらさ――――…」
君が、恋人だ、って云っても、名前を呼んでくれないなら、何の意味もないんだ。
だから―――――…。
だから、今は、機嫌が悪いフリ。
君が、その声で、俺の名前を呼んでくれる為の、ね。
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あとがき
この後、リョーマは名前を呼んで貰えたのかは、想像にお任せします。
リョーマ×奏荼でした。
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