消えない虹の向こう側へ
マネージャーをやれ
「どこも怪我はねェって」
「ウス」

テニスコート内では、2人が云い合いをしている。

「左手首、少し腫れているのは気の所為かい?帽子クン」
「誰だよ?お前」
「誰だって良いだろう?怪我をしていなかったら診せられると思うが?」

亮は言葉に詰まったように、ふい、と視線を反らす。
どうやら、怪我をしているのは事実らしい。

「ほら、診せなさい」

じぃ、と見つめてくる眼差しに根負けしたのか、

「判ったよ」

そう云って、左手を差し出した。
奏荼は左手を見ると、その手首に指先を這わせた。

「これは…?」
「いや…何とも…って、痛てっ」
「キリンクン、テーピングあるかい?」
「ウス」

云われる前に出されたテーピング。

「ありがとう」

奏荼は器用に、テーピングを巻いていく。

「これはあくまでも応急措置だからね。部活が終わったら病院に行くんだよ。怪我は甘く見てはいけない。特に捻挫はね。はい、終わり」
「へえ、器用なんだな」
「じゃあ、ボクはこの辺で帰るよ。君達の側に居ると、纏わり付くこの視線が疎ましいからね」
「これぐらい平気だろ?」

岳人が奏荼を見る。

「ボクは見世物パンダじゃないんだよ。ああ、帽子クン、どうしても病院に行けないなら、2日後においで。テーピングを替えてあげよう」

奏荼はそれだけを云い残す。
だが、そうは問屋がおろさない。

「桜井」
「何だい?」

景吾に呼び止められて、奏荼は歩みを止めた。

「テニス部マネージャーをやれ」
「慎んでお断りするよ」
「即答かよ」
「云っただろう?君達には興味がないと。それに、嫌がらせを受けるかも知れないと云う、スリルに飢えている訳でもないし、ドMでもないんだよ。諦めなさい。部長クン」

ヒラヒラ、と手を振り、奏荼はテニスコートから去って行く。
殆どの女子生徒がなりたいと云って来たマネージャー。
けれど彼女達の目的は、マネージャー業務ではなくて、近くで、レギュラー達を見る事。
それに辟易していた。
だが、今回見つけたコイツだけは、手に入れたい。
この俺様ですら気付かなかった、宍戸の怪我に気が付いた。
それに応急措置も的確だった。
向日が云う通り、スポーツドクターを目指しているのは間違いないだろう。
ただ、名前を覚えられないと云う欠点を除けば、完璧なんだが。
1人、心の中で呟きながら、奏荼が去った方を見つめていた。




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