消えない虹の向こう側へ
趣味は人間観察
「うーん、昨日はいっぱい知り合いが出来てしまったよ」
「じゃあ名前を云ってみようか」

悠香の言葉に、奏荼は黙りこむ。
どうやら名前を覚えてはなかったようだ。

「天は二物を与えず、は本当だったわ」
「?」
「容姿端麗、スポーツ万能で、何でも揃ってるのに、人の名前を覚えられないと云う欠点があるんだから」
「人の名前を覚えなくても大丈夫だよ」

ガタリ、と席を立つ。

「奏荼?」
「人間観察してくるよ」

クス、と笑って、奏荼は教室を後にした。





「跡部様ーーーーッ」
「キャー、目があったー」

等と、黄色い悲鳴が響く中、奏荼はテニスコートの観客席に居た。

「んー、人間観察に適してはいるが………この騒がしいのは何とかならないのかね」

非公認のファンクラブに属している少女達は、お目当ての彼等を見て悲鳴を上げた。

「まあいいか。彼女達も観察の対象だしな」

1人呟きながら、薄型のノートパソコンを開いた。
カチカチ、と無機質な音が聞こえる。
一心不乱に打ち込むその姿は異様である。

「うーん、ちょっと違うか」

呟きながら、ふ、と顔をあげると。
目の前に映る、侑士のドアップ。

「桜井さん、何しとるん?」
「ふぎゃあああああっ!!!!!!!」

奏荼の悲鳴がテニスコートに響く。

「そんなに叫ばんでも…」
「うう…」

呟く侑士を他所に、ポロッ、と涙が零れる。

「堪忍やで💦まさか泣かれるとは思わんかってん」
「ウス!!」

奏荼の悲鳴を聴きつけて、崇弘が駆けつける。

「やあ、キリンクン。ちょっと驚いてしまってね💦」

奏荼はハンカチで涙を拭う。

「…本当にそれだけですか……?」

じろ、と侑士を見つめるが、奏荼が頷くので、一先ず、安心する。

「はー…驚いたよ。いきなりのドアップだったからね。かえって迷惑をかけてしまって申し訳ないね、おちたりクン、キリンクン」
「何をしている」
「あ、跡部…一心不乱に何かしてやったからな。興味あってん」

悲鳴を聴きつけたのは、崇弘だけではなく。

「奏荼!!」
「おや、ガッチャマンにアトダシクン」
「跡部…、もう諦めた方がいいで」

突っ込もうと思った瞬間、侑士に止められる。

「どうしたんだよ!お前が叫ぶなんて…って、誰だよ、コイツ泣かしたの!!」
「いや、ガッチャマン💦驚いてしまってね、泣くつもりはなかったんだよ」

慌てて弁論する。

「お前が泣くなんてよっぽどだからさ…」
「済まない。そしてありがとう」

ふんわり、と笑う奏荼に、その場に居た彼等は、頬を紅く染めた。



(笑ったら結構可愛い)
(この笑みは反則だろう!!)
(何時も笑ってたら良いのに)
(こんな表情も出来るんだな)



等と思った。

「そう云えば、あの帽子の男の子、ケガをしているね」
「帽子の……」
「男の子…」

奏荼に云われて振り返る。
すると、そこには、亮の姿。
ケガをしている様子はなかった。

「動きが違っているんだよ」
「奏荼が云うんだ、間違いないだろ。コイツの趣味は人間観察だから」
「ウス」

崇弘は景吾に云われる前に、亮の元へと向かった。

「さて、テニスコートに入っても良いかな?」

奏荼は景吾を見つめる。

「部外者を入れる事は出来ねェな」
「捻挫は癖になるのは知っているだろう?テーピングだけでもさせて貰えないか?」
「コイツのテーピングは折り紙付きだから大丈夫だぜ。趣味もスポーツドクターの為だしよ」
「………」

この時期、正直に云うと、レギュラーの怪我は手痛い。
早い手当てが必要となるのは、知っていた。

「………判った。だが妙な真似をしてみろ。否応なしに追い出す」

渋々だが、了承を出す。

「する筈ないだろう?君達には興味がないんだから」

哀しげな眼差しを見た彼等は、一瞬、言葉を失った。




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