消えない虹の向こう側へ
奏荼との出逢い(崇弘編)
「そう云えば岳人」

昼食を摂りながら、侑士が口を開く。

「ん?」
「桜井さんと幼なじみやって云ってたけど、何時もあんなん?」
「奏荼は何時もああだ」
「桜井って、女子の首席?」
「今日、初めて話したんやけど…」

紙パックの牛乳を飲みながら、侑士は岳人を見る。

「奏荼に興味あるのか?」
「俺等見てもキャーキャー云わんし」

それは景吾も思っていた。
それに景吾の事を知らないようだった。

「あいつさ、美形に免疫あるんだよ。一番上の兄貴は、モデルのkaitoだし、二番目の兄貴は、ロックバンド『エターナル』のヴォーカルのyukito」
「マジかよ!俺、CD持ってる」
「三番目の兄貴は俳優の日下部蓮」
「だから美形に興味がないんか…」

などと云っていると。
くぐもった音が聞こえる。

「ウス」

どうやら崇弘の携帯が鳴ったようだ。

「判りました……伺い……ます」

ぴ、と通話を終わらせると。

「どうした?樺地」
「ウス」
「呼び出しか?良いぜ、俺様も付き合ってやる」

どうやら、崇弘を呼び出した相手に興味があるのだろう。
景吾は立ち上がる。

「ケド珍しいな。お前が携帯番号、人に教えるなんて」
「ウス」

そう云うと、崇弘は景吾と一緒に呼び出された場所に向かった。
まさか、ここでまた、奏荼に逢うなんて思ってもいなかった。





「やあ、キリンクンに……岸部クンだったか?」

きょとんとした眼差しを景吾に向ける。

「誰が岸部だ!!」
「ボクはキリンクンを招いた筈だったが…まあいい。この間の御礼をしていなかったからね」
「御礼?」

崇弘を見上げる。

「風に飛ばされたプリントを拾って貰ったのだよ。あれはとても大事なものだったからね。ほら、これ」

差し出されたのは、小さなカギ。

「図書室の奥の開かずの扉のカギだよ」
「合鍵の不正作成だぞ」
「時折借りているんだよ。これは理事長や校長にも許可を得ているから、安心すれば良い。君達も不条理に追いかけられて、心のゆとりがないだろう?」

奏荼の言葉に、景吾は何も云えなかった。
事実、追っかけ、と呼ばれる少女達は、所構わず追いかけて来る。
逃げて居ても、居場所が知られてしまい、どうする事も出来ない。

「ここなら、ボクしかカギを持っていないから安心すれば良い。放課後以外なら好きに使ってかまわない」
「ウス」
「では用が済んだから帰るよ。ガッチャマンによろしく云っておいてくれ」

ヒラヒラ、と手を振り、奏荼は去っていく。

「………フン。変わった女だな」
「でも………優しい人、です」
「珍しい事もあるんだな。行くぞ、樺地」
「ウス」

景吾の後を追うように歩き始める。
奏荼と崇弘の出逢いはプリントを拾った時が初めてではなかった。




『お前、何時も跡部先輩にべったりじゃん』
『金魚のフンかよ』
『大体、ウスしか云わねぇし』
『何とか云えよ!』

そう云って、彼等は崇弘の足を蹴る。
痛みが走る。
ぐ、とこらえ、次に襲い来る言葉に耐えようとした時だった。

『君達はそこで何をしている』
『!!』

ギクリ、と身体が強張る。

『何だよ!お前には関係ねェだろ』
『確かにな。けれど、見てしまったのだから、立派な関係者だよ』

ヒョイ、と容易く窓を乗り越えて来る彼女に目を奪われた。
流れる様な黒い髪。
くりくり、と大きな瞳。
まるでお人形のように可愛い、と云う言葉が似合いそうな女性だった。

『さて。君達は年上に対する言葉遣いがなっていないようだ。頭を解剖して、脳がどうなっているのかを見てみよう』
『はあ?』
『頭が可笑しいんじゃね?』
『いや。至って正常だよ。先程、鶏を解剖していたからね。安心しなさい。苦しまずに殺してあげよう』

にっこり、と笑って、手に持っていたメスを見せた。
それは確かに、血液が付着していた。
どうやら解剖していたのは事実らしい。

『さて。誰から解剖して欲しい?解剖後には移植で、意志はないが、他の人の臓器として生きられーーーー…って、冗談だったのだが…』

奏荼の言葉にビビったのか、彼等は崇弘だけを残して去って行く。

『奏荼の冗談は通じ無いからね。ソレ、演劇部に頼まれた小道具だし』

どうやら、演劇部の友人に頼まれて小道具を作っていたらしい。

『そうか。それは済まない。けれど小道具のリアリティーは確認出来たから良し、としよう。では、君はボクに付いておいで。ケガの手当てをしよう』

そう云って、彼女は笑った。
初めて逢うのに、見ず知らずの崇弘を助けるなんて勇気がいっただろうに。

『…すいません…』
『気にするな。ああ云う類いが嫌いなだけだよ。ほら、足。診れないだろう?』
『大したケガではありません……』
『いけないな。ケガを甘く見ては。良いから診せなさい』

半ば強引に、崇弘の足を膝の上に乗せ、

『骨は異常無し。だが、痣になっている。アイシングをして湿布を貼っておこうか。えーと…』
『1年の…樺地崇弘……です』
『キリンクン。明日の朝、腫れているなら病院に行くんだ。打撲傷なら大丈夫だが、油断は禁物だからね。また、何かあったら連絡しておいで。アドレス、教えておくよ』

彼女は優しい笑みで、アドレスを書いたメモをくれた。
それが初めての出逢い。
例え、名前を間違って呼ばれてもかまわない、と思った。
何時も景吾の側に居たから、妬み、を一身に受けて来た。
大抵は名前を知っている筈。
けれど、彼女だけは違った。
1人の人間として見てくれている。
『金魚のフン』ではなく、崇弘個人を。



ソレが初めての出逢い。





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