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サイレントガール
笑ってほしいから


今日はいつもの昼とは違う。

奏ちゃんと交互に空き教室で一緒に食べていたんだけど、今日は屋上で食べることとなった。

さっき、忍足先輩と宍戸さんに会って大丈夫と思ったみたい。



3人で屋上の扉の前で立ち止まる。



「奏ちゃん、開けるね?」


コクン


「俺達の間に座ればいいだろ」

『ありがとう…』


「フン…」




ぷい、と顔をそらす日吉。


奏ちゃんが“ありがとう”って言ってくれてるのに…

でも、奏ちゃん笑ってるし…大丈夫かな。




ガチャ


あー…今日も眩しい…。




「オイ、遅ぇじゃねぇか…。鳳。日吉。」

「すみません…」

「コイツだな?てめーらが言ってたヤツは。」

「はい。」





事前に跡部部長に許可貰っておいて正解だ。

忍足先輩に少し付き添ってもらって、説明したら意外にもすぐに許可は下りた。

メンバー全員にも伝えておくって言ってたし…あの向日先輩でも非常識なことは言わないと思う。





俺はもちろん、宍戸さんの隣に座って。

立ち止まったままの奏ちゃんを日吉が手を引っ張って座らせた。

順番的には、宍戸さん。俺。奏ちゃん。日吉。ジロー先輩…って感じで。


奏ちゃんの向い側には忍足先輩がいる。(その隣はもちろん向日先輩だけど)





「さっきぶりやな、奏ちゃん」

『こんにちは』




ぱくぱく、そしてお辞儀。

本当に、律義だよね。



「俺、向日岳人!よろしくな!侑士とダブルス組んでんだぜ」



慌ててお辞儀する奏ちゃんに、ニコニコしている向日先輩。



「俺は、わかるからええな。」

「こいつは樺地。そして俺様は跡部だ。生徒会長の名前くらい知ってるだろ?アーン?」



コクコク、頷いて。お辞儀する。
部長の弁当、今日も豪勢ですね。



「俺、芥川滋郎ー。よろしくねー?」




何回もお辞儀して、疲れないのかな。

でも、後は全員知ってるし、平気だね。


跡部部長によって、お昼は始まった。



いつも思うんだけど、奏ちゃんのお弁当ってすごくかわいいと思う。
色鮮やかで、きれいなんだよね。

ぎゃーぎゃー、と向日先輩も忍足先輩と話している。


俺も宍戸さんと話をしているわけなんだけど、奏が気になってそっちを向いたら、日吉と話をしてた。

時折、笑顔が見えて、彼女も彼女なりに楽しんでいるようなら、安心。




「オイ、どうした?長太郎」

「いえ。何でもありません」



ぐいぐい、




「!……奏ちゃん、どうかした?」


『ピヨ、笑わない!』


「うん。俺だってあまり見ないよ?」



日吉が満面の笑みとか、考えられない。

むしろ変なものを食べたんじゃないかって思うよ。




「長太郎。なんて?」

「別に大したことありせんよ。」

「ハハ…ι奏ちゃんが、日吉が笑わないって言ってるんです」




ムッとした表情で俺を睨む日吉。

でも、奏ちゃんがくるっと日吉を見ると、いつもの無表情に戻ってる。




「あー…コイツはなかなかわらわねーぜ?雪野…」




あ、すっごく嫌そうな顔。

奏ちゃんは、日吉の頬を指で突いている。



「つつくな。」



日吉は奏の指を捕まえて頬から離す。

すっごく不満そうな顔だね。





「そこー、イチャつくなや。」

「いちゃついてません。」



あ、忍足先輩も参戦か…




「何してるんや、この2人は…」

「侑士の言う通りだぜ?こっちから見りゃイチャイチャしているようにしか見えねーから!」



「イチャついてません。何でもありませんから」



はぁ、

溜息をまた吐いて、奏ちゃんの頭を軽くチョップした。


痛そうに頭を抑えている。



「大丈夫?」

『痛い…ピヨ、ひどい』

「そーだね。」



こっちは盛り上がっているけど、忍足先輩達は首をかしげたままだ。

それに気づいたのか、奏ちゃんは俺の制服を引っ張って、ぱくぱく。


そして、忍足先輩の方を指さした。


あぁ、言えってことか…




「ん?なんや?」


「いや……」



チラッと、日吉を見るとすごい目で睨んでくる。

でも奏ちゃんは言って欲しそうだし…



ごめんね、日吉



「えっと。奏ちゃんは先輩達に、日吉の笑った顔見たことありますかって聞いてるんです。」




あからさま、ため息を盛大に吐く日吉。

忍足先輩達は、うーん。と考えて。



「まぁ、見たことないっちゅーことはないんやけど、少ないなぁ…」

「俺もー」

「せや、気になってたんやけど…奏ちゃんは2人と仲ええんやろ?」




じーっとこっちを見ないでよ…奏ちゃん。

不安なのかな…


そうだよ。って言うのもなんだし、肯定を示すようにニコリを笑ってあげた。

そしたら花が咲いたように顔を明るくして、忍足先輩に頷く。



本当に、可愛いんだから…




「2人のこと、なんて呼んでるんや?鳳は“奏ちゃん”で、日吉は“奏”、やろ?」




その質問にいち早く反応したのは日吉だった。

あれじゃあ、そうかもね。




「奏…絶対に言うなよ」




先手、必勝?

ニヤッと笑う奏ちゃんはぱくぱく、何かを日吉に条件を出した。

眉が寄った日吉だけど、少し考えた結果。



「はぁ…それで手を打つ」



そしたら、奏ちゃんはすごく嬉しそうな顔で。

俺の制服を引っ張って報告してくるんだ。



『ピヨ、アイスおごってくれるって!』

「良かったね、おめでとう。」

『チョタ、自分で伝えてくれる?』


「ん、わかった。

忍足先輩、俺は奏ちゃんに“チョタ”って言われてますよ」


「ほー…」

「へーなんでなんで?」



向日先輩が聞いてくるから、一回奏ちゃんと目を合わせてから言った。



「奏ちゃんがノートに書くとき、鳳って漢字難しいですし、ひらがなにしても多いですから。
俺が“チョタ”でいいよって言ったんです」


「へぇ…じゃあ、奏ちゃん。俺も侑士でええで。」

「俺はー…そのままの方がいいか。岳人なんて大変か…?」

「あ、じゃあ、俺ジローねー?」



何時の間に話に入ってきたんですか…?っていうか、起きてたんですね。

まぁ、いいか。

横目で跡部部長を見ると、なんだか温かく見守るって感じ…
まるで奏ちゃんの親みたい。



奏ちゃんは持ってきてたノートを取り出してペンで書き出した。

書き終わると3人に見せていて




――ゆーしせんぱい

  がくとせんぱい

  ジローせんぱい――



奏ちゃんは、嬉しそうだった。




「オイ、鳳。」

「はい、何ですか?跡部部長」

「お前は知ってるんだろ?雪野が日吉のことなんて呼んでいるのか。」

「え、まぁ…」


それは、ねえ。


「雪野は言えなくても、お前が言えば良いことだろ。」

「鳳!」



日吉…
ごめんね。

奏ちゃんがすっごくあたふたしてる。


「御免、日吉……一瞬の屈辱だけだから我慢してね?」

「やめろ、おおと…」

「はーい、日吉は大人しくしてよーねー。俺も気になるCー」



「で、日吉はなんて言われてるん?」




興味シンシンな全員。





「日吉は奏ちゃんに…“ピヨ”って言われてます」






「…ぷ、あははははははは!!!!!ピヨだって可愛いなオイ!」

「あかん、笑い死にそうや…!」

「ピヨなんてかわEー」





ガックリしている日吉は恥ずかしさから顔を覆っている。

宍戸さんは口を押さえて背を向けているけど…肩、震えてますよ?
笑い堪えているの、バレバレです。


奏ちゃんはなんで皆が笑っているのかわからないみたいだね。




「奏ちゃん、気にしなくて大丈夫だよ。」





ほら、こんな近くにあった

パンジー(心の平和)



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