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右手に銃を、左手に花束を
少女は知らぬ間に宿を見つけた




「不思議な…、不思議な話をしよう」


雨が降り注ぐ中、傘を差すことなく首を傾げ、笑みを浮かべながら地面を見下す男は、誰に話しかけることもなく愉快に話しだした。
後ろに控えているスーツ姿の男は「また始まった…」と言わんばかりにため息を零して腰に手を添える。
前に立っているその男は水を吸って深い青色に変色したツナギを着ている金髪の男はいきなり立ち止まり、腰を沈める。


「グラハムさん?どうしたんです」


変なものでも見つけましたか?
そう続ければ、さぞ楽しそうな表情で部下の方を向いた。


「こんな場所を寝床にするやつがどこにいるんだ?そもそも寝る場所ではない。
は!!それは固定観念であってコイツにして見ればここが寝床になっているのかもしれん。
そうすればこれは不思議な話ではない、楽しい話にもなるんではないだろうか…。喜べ!猫を見つけた!」


襟足をぐっと持ち、猫のように見せてみれば驚きの表情を浮かべた。
どう考えても猫には程遠い。
黒いフードをかぶり、死んだように眠ってしまっている子供。
雨に打たれて水分を含んでいるとはいえ、腹部は異常な色をしており、ツナギの男…グラハムが持ち上げたことで事態が少しずつ判明してきた。
服の裾から透明な雨に混じって赤い色を帯びた雫が地面に垂れる。
それも尋常ではない。


「怪我している。俺はこの猫を拾って育てようと思う、愉快な話になりそうだ」
「何処がです?今にも死にそう…って、死んでるかもしれませんよ、猫は拾わないでください、グラハムさん。誰が面倒見るんですか」
「お前」
「そういうと思ってましたよ。捨てて…ってなに持ち帰ろうとしてるんですか」
「壊すにはもったいないだろ?始末するならこいつから楽しい話を聞いてからでも遅くなーい」


ルンルンとした表情を浮かべ、グラハムは猫のように前に抱き上げて頭を撫でる。
先を歩くグラハムに対し、部下は深くため息を零しながら子供が転がっていた場所を見た。

雨とはいえ、あの傷を負ったのであれば何かしら跡が残るはずだ。
しかし、あの子供以外何もないのだ。
いきなり血まみれで倒れたことになる。


(報告…ですね。社長なら何か知っているかもしれない)


その現場を目に焼き付けて、傘を持ち直すと少し先を歩いているグラハムの後を追いかけた。




「やはり不思議だ」
「この子…やっぱり女の子っすね」
「どーする!なんにも考えちゃいねーぞ!男だと思ってたんだが…」


自分たちのたまり場に戻って子供を下ろすが、目を覚ます気配すら感じない。
グラハムは拾っても飽きればすぐにバラす。
しかし、珍しいことに興味を未だに持っているのだ。
幼い少女を囲うように男どもが周りに集まる。


「ルーアさん、呼んできましょうか」
「ラッドの兄貴にも相談だな。俺はコイツの話が聞きたい。聞けば用済みなわけで。身柄はラッドの兄貴にやってもかまわねえ…」


ニヤリ、笑みを浮かべて少女の頬を突っつく。
反応ないことにグラハムはつまらないらしく、レンチをもって奥に消えて行った。

丁度ラッドとルーアがこの場所に来ていることが幸い、と言えよう。
少女なら野郎が見るよりも女性が見た方がいいに決まっている。
ほかの奴であればなんら躊躇いなく服を脱がせるに違いない。

傷口からして銃。
腹部に一撃。
こんな幼い子供にしてみれば致命傷に違いない。


「この子…?」


控えめな声が上から降り注いで顔を上げた。
儚い顔で少女を見る女性…ルーアは雨に濡れてへばり付いた前髪を優しく取り払うと、頬に手を添えた。


「冷たいわ……」
「よぉ、この餓鬼かぁ?ガキは嫌いなんだよなー」
「ラッド…」
「そんな顔すんなよルゥーアー」


助けたいのか
肩をつかんで寄せられ、耳元でささやいているラッドに遠慮がちに頷けば、チラリと視線だけ少女に向けた。


「で?コイツ助けて何か得あんの?」
「グラハムさんが猫を飼いたいと言いまして…」


と、少女を指差せば、ルーアも少し考えて、ラッドの服を引っ張った。


「どうしたんだ、ルーア」
「ネコ…飼いたい」




少女は知らぬ間に宿を見つけた
(ルーアがわがまま言うなんてめずらしいなぁー!よし、飼うか)




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