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右手に銃を、左手に花束を
エミリア・クラインは愉快に笑って死を振りまく



「いきなり仕事放棄とはどういうことだ?説明してくれんだろうな、朔弥」
「…………その仕事は正式に受けていない。そちらよりもルノラータの方が先」

怒りをあらわにしているキノに対し、朔弥は冷静。
キノの職場と化している机には、調べっぱなしの書類が一面に広がっており。
その中から数時間前に話した女性の書類を手に取ってキノに投げつけた。


「先にこっちを殺す。」
「ルノラータの幹部か……ドンが納得すると思うか?」


朔弥がルノラータの依頼を受けない理由ができた。
そして狙われてしまう理由さえ、掘り出してしまったのだ、このまま放置はできない。
また、殺されても仕方のない話。

イタリアのボンゴレ。かの幹部がルノラータの者に消されたと言われれば、いくら依頼でも断ることは出来ないだろう。
アルヴィス・ガンジェラ。
ボンゴレの中で幹部として身を置き、信頼を得られていた人物だ。
その男を殺した者は死んだが、裏で糸を引いていたのがルノラータと知ればボンゴレも怒ることだろう。


「反発するのであれば、殺すまで」


場所はもうわかっている。
そうつぶやくと、銃を懐にしまって黒いコートを身に纏うと窓に足をかけた。


「3日後の朝まで戻らなかったら……」


それを最後に窓から飛び降りた。
つまり、それは死を表している。
クソ、キノはくしゃりと髪を掻き乱して苛立ちをかけせずにいた。
ぶつけようのない苛立ちは解消されることなく、その身をベッドへ投げ込む。


(3日後…ねえ……)


*****



「おかしいわ…いつからここはネズミの入れるような場所になったのかしら」


クスリ、笑みをこぼす女性は手に持っているフラスコを揺らしながら大きな独り言を口にした。
ルノラータの屋敷に潜入していた朔弥は眉間に皺を寄せて息をひそめる。

まさか、見つかってしまったのだろうか。
じっと見る先では、女性がフラスコを机に置いて机に寄りかかった。


「出ていらっしゃいな、どぶネズミ。私の前に姿を見せられないほどの臆病者なのかしら」


写真で見た女性と少し異なるものの、面影はあった。
白衣と同化しそうなクリーム色の長い髪は一つに束ねられ、深緑と青のアッドアイが眼鏡越しに映る。

挑発と知りながら、瞳を見た瞬間にとどまることをやめて天井から部屋へと着地。
フードを被ったまま、鋭い眼光は女性へと向けた。


「ションベンくさいガキが来る場所じゃないのよ、こそこそと煩わしい…」


嫌なものを見た。そんな瞳をしている。
あからさまに大きなため息を零すと、腕を組んで朔弥を見下ろした。


「あなた、どこの子?恨みを買うような事…は、してるわね。証拠となるものは一切ないはずよ、私への恨みも残らないほど。
でもあなたは、どうして殺気を私に向けているのかしら?」

「元々、オッドアイ?」


似た色をした男の顔が浮かんだ。
クフフ、なんて変な笑い方をする男。
片目は手術によって抉り取られ、代わりに六道の赤い瞳を入れられていた。
ひどくその赤を嫌って、最初は隠していたっけ。なんて思いを馳せながら、女性に問う。


「綺麗でしょう、あまりにも美しい色をしていたから移植したの。」


その少年がどうなったかは知らない。
運がよかったら生きているかもしれない、なんて言葉を紡ぎながら自分の目をおさえた。

「本当は両目欲しかったのよね……、貴女、エストラーネオの実験体なの?」


じろり、さも汚いものを見る表情を浮かべて朔弥を見下す。
実験体が逃げた。そう思ったらしいが、首を振ればあっけなく肩をくすめて表情を戻した。


「じゃあ、何しに来たのかしら」
「…僕は貴方を殺しに来ました。」
「プッ、アハハハハハ!!面白いことを言うのね、本当に面白いわ。一つも面白いことを言わないルーアよりも、断然!面白いわ!!」
「………」
「馬鹿なルッソと同じことを言うのね、“私は死なない、安全なんて思っている人こそ殺したくなる!”アハハ、ラッドの糞もそんなこと言ってたわ!けど私は殺されない、こうして生きているわ!愉快よ、貴女!」
「我がファミリーを殺した罪は重い…。死して、償…っ」


ぐらり、景色がゆがんだ。
床に両手をついて深呼吸を繰り返すと、視線だけを上にあげる。
そこには怪しく笑みを浮かべている女性。


「匂わないでしょ?無臭なのよ、コレ。弛緩剤なの、よーくできているでしょう?せっかくだから殺す前に教えてあげるわ。
私はエミリア・クライン。元・エストラーネオ構成員にして現・ルノラータファミリーの構成員よ。
もともとこっちにいたのだけど、エストラーネオが面白い実験をしていたから一時的にそっちにいたまで。
でも、おかげでいい収入があったわー」


この目とか。
にっこりと笑みを浮かべて朔弥に銃を突きつけた。


「侵入不可能のこの場所までたどり着いたのは褒めてあげるわ。聞きたいこともいーっぱいあるのだけど、実験体になって頂戴ね」
「な、にを…」
「存在自体を無に帰すものよ。殺すんじゃない、死体も残らない…そんなものを作ってたの。犬や猫は出来たのよ、次は人間」


できるのかしら。
その表情はウキウキとしていた。
まるでおもちゃを手にした子供のようで…。


「サヨウナラ、愚かな侵入者さん」


引き金を引いたと同時に、朔弥は力を振り絞ってワイヤーを飛ばした。
弾ける音と、悲鳴が聞こえたのは同時で、朔弥の意識は痛みと共に闇へ消え去った。








ガチャ


「騒がしくするなと……、総動員で屋敷を調べろ。ネズミ一匹逃すことなく、くまなく、だ。」
「はっ!」
「それと…、この女を処分しておけ。気味が悪い」


ルノラータのドンは眉間に皺を寄せ、ドアを閉めた。
静かに頭を下げる部下は小さく返事をする。
部屋に残された頭と、切り離された身体。





―― 某ホテル ――

ガチャン

テーブルから落ちた空のカップが音を床に落ちた。
いつも持ち歩いていた、朔弥の湯飲み。

慌てることなくカップを見つめるキノは眉間に皺を寄せ、ここにいない朔弥の名を呼んだ。
胸がざわつく。



「朔弥?」






エミリア・クラインは愉快に笑って死を振りまく
(彼女は、死して笑っていた)
(そして少女は消え去った)


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120109


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あきゅろす。
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