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右手に銃を、左手に花束を
それでも少女は物語を続ける




夜の街、屋根を飛んでいく一つの影。
誰もそれに気を留めない。

気付かない。


「(大体のことは把握した…。この辺りがガンドールの『シマ』、か…。)」



『シマ』…管轄、というものか。
噂程度しか聞かなかったが、まさかマルティージョがイタリアンマフィアだったとは…。
朔弥が調べ上げた結果、そんな事実までわかった。とは言うものの、すぐに手に入った情報なのだが。

もっとも、驚いたのは依頼人側に殺したい奴が居るということ。
放った殺気にキノが大慌てで落ち着かせようと必死になっていたのは、記憶に新しい。

まさかこんなに早く見つかるとは…。
そう考えながら任務よりもそれを先に殺す…そう心に決めた朔弥はひとまず、ガンドールを調べて気を静めることにした。

裏道…誰もいないことを確認してから音も気配もなく降り立つ。
一息入れて、コートを軽く叩いてからまっすぐ立ち、一般人を装ったその姿で大通りを歩く。

どこから見ても、普通の女の子に見えるだろう。
普通に歩くものの、向う先はガンドールのアジト。通り過ぎるだけだが、怪しまれないように進むのは難儀である。

一般人が滅多に通らなさそうな場所にあるからだ。
しかし、たまに人が通るのも事実。

朔弥は通りにある青果店で買い物をして、さり気なく通ることに決めた。それでも賭けである。
ばれる可能性がない訳ではない。






ふと、街角にひっそりと建っている本屋を見つけて、朔弥は何となくという気分で足を運んでみた。
電器はそんなに明るくなく、むしろ暗い位だ。
朔弥は棚にぎっしりと詰められている本に目を移してみるが、どの本も黄ばんでいて古い本独特の匂いが鼻を擽る。

その中でも、気に止まった本を手にとって開いてみる。
字こそは古いが…内容はわかりやすそうだった。


その本をパタン、閉じて店の人に渡した。
今時の丸眼鏡の先にある瞳は優しげで、朔弥を見るとにっこりと笑みをつくった。


「お譲ちゃんお使いかい?えらいねぇ…こんなに難しい本で良かったのかな?」
「……」


チャリン、金属音がして店主は目を向けた。
細かなお金と、数枚の紙幣。ぴったりの本の代金。



「ありがとうね。」



ご丁寧に紙袋に入れて朔弥に渡した。
それを受け取り、##NAME1##は踵を返してその本屋を去っていく。
そして通るべき道…ガンドールのアジトの方向に足を進めていた。




「(確か…この辺のはず)」



人の量はだいぶ減った。
前を見ても後ろを見ても人がいるかいないか。

いるとしても3人ほどの小さな群れをなしているだけ。


朔弥は隠し持っているトンファーとワイヤーを確認することなく、周りに気を留めずに歩いている。
このようなチンピラはトンファーを用いることなく倒すことができるからだ。
これだけ人がいないのであれば殺してもわからないだろう。ただ、すぐにホテルに戻らないといけないのが難儀だが。



と、先に見えてきたこじんまりとした入口。階段を数段を上った場所に入口があって、正直目立たない。

朔弥は目も向けず、しかし視界に入っている時はそれに集中していた。



「(ここが……)」


通り過ぎた後、ホテルに戻ろう。
そう思った時、後ろから近寄って来る足音。

朔弥は警戒するが前方には人が。これでは下手に行動できない。
しかも朔弥を見ている。なおさらだ。



ぐいっ
「なぁ、お譲さん…さっきから一人で歩いてるけど……ここじゃ危険だよ?」



後ろから近づいてきた人たちは先ほど群れていた集団の人たち。

いきなり腕を掴まれたせいで、先ほど買った本が落ちてしまった。


朔弥は振り払いたい気持ちでいっぱいになり、不機嫌さマックスだった。
下品な笑いをするチンピラを睨みつけるが、殺気を一切立てていないため朔弥から離れない。
近くにいる群れのせいではない。

こちらに近づく気配を感じているからだ。


「(一般人のフリが妥当?)………っ!」


朔弥は少し身を震わせて、顔を下にして表情を隠した。
脅えて身を震わせ、泣きそうな顔になっている、と思っているんだろう。
しかし、実際朔弥は脅えているわけではない。
演技は得意だ、目に涙を浮かばせて小さな声で痛がる声を出せば、下品に笑ってくる。
腕を引いてみるが、逆に力が入って引き寄せられ、苛立ちも限界に近づいていた。


「(耐えられない…殺して……)……」
「何をしているんですか?」



第3者の声が聞こえた。
チンピラ共の笑い声は止まり、声のする方を見れば3人の男性。
朔弥はすぐにその名前が浮かんだ。

(ガンドール…)

「こんな幼い少女に手を出すとは…腐った人たちですね…」


ラック・ガンドール。
頭の中で写真の男と合わせて確認をする。

チンピラは冷や汗を垂らして朔弥の手を離すと、そそくさと去ってしまった。
後ろにいた、がたいのいい男…ベルガ・ガンドールが声を上げながらチンピラを追いかけて行った。
そんな兄を見て苦笑する目の前にいるラック・ガンドールは朔弥に手を差し伸べた。


「大丈夫ですか?この辺りは危険です、通らないことをお勧めしますよ」
「………」
「お父さんとお母さんはどうしたんです?」
「………」
「…、キー兄」
「お兄ちゃん、ホテル…で、待ってるから。助けてくれて…ありがとう。いい人なんだね、お兄ちゃん」


震える手でラックを見、一人で立ち上がると青果店で買ったものをまるごとラックに渡した。
お礼。
そういうと、本を大事に抱えて裏道を駆け抜けた。





それでも少女は物語を続ける
(もらっちゃいましたね)
(……)

NEXT...
111210



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