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右手に銃を、左手に花束を
社長は全てを語らずともその全景を知って笑った




2人が目的地について看板を見て確認する。


「んー…ここらしいな」


目立たない場所に、ひっそりと建っているビル。立派とは言えない看板には『デイリー・デイズ』と書かれている。
新聞社という名のくせに、新聞としてはあまり…といったところ。看板を見ればそれも納得できよう。
しかし、この『デイリー・デイズ』は裏の仕事が遥かに収入があるらしい。

キノの情報屋仲間によると、アメリカの中でも一番仲が良くて信頼できるということだ。
ただ、地元のマフィアにはあまり評判はよろしくないらしい。

既に紹介状をここに送っておいたらしく、遠慮なく言えばいい…という話を耳にしている。
朔弥はフードを深くかぶり、黒いコートを着たまま、中に足を踏み入れた。




カランカラン...
忙しく動く機械と印刷の音。

社員が熱心に仕事に打ち込んでいる姿。

朔弥とキノが会社の雰囲気に目を配っていると、目の前に爽やかな笑顔で2人の前に立った。



「いらっしゃいませ〜。本日はどのような御用件で?
定期購買のお申し込みですか?あぁ、失礼…私は英語版のデスクを務めておりますニコラスと申します。」


いちいち言動に忙しい人だ。
右手を胸に添えてにこやかにお辞儀をする。
朔弥は少しばかり眉をよせて、ニコラスという男から視線を外した。

それに気づいたのだろうか、ニコラスはクスクスと笑いながらポケットから飴玉を一つ出して朔弥の前に転がす。


「お嬢様には退屈な場所かもしれませんね、どうですか?飴でよろしければおひとつ…。」
「…いらない」


長い髪の毛が、女の子だと思わせたんだろう。
中に入ってもフードも取ろうとせず、キノの後ろに隠れてしまった。


「(朔弥…っ!)えー…ちょっと今不機嫌でして、すみません。」

「いえいえ。それで御用件とは……」

「俺の名はキノと言います…。それでわかりますか?」



満面の笑顔でニコラスに向ける。
いままで爽やかな笑顔だったニコラスは一瞬にして顔色を変えて、丁寧にお辞儀をした。



「これはこれは、失礼を。お待ちしておりました、キノ様。ご案内いたします」



顔を上げるニコラスは再び笑顔になり、奥にある社長の部屋まで案内した。
キノの後ろを歩く朔弥を少し気にしているが、朔弥はその絡み付くような視線に気づきながらも無視してついて行くだけ。
何人かすれ違いにお辞儀されたが、やはり情報屋、といった感じだろう。すれ違った後の視線が妙に絡んでくる。
普段、じろじろ見られることのない朔弥はその視線に苛立ちを隠せず、フードの中で眉間に皺を寄せた。

コンコン
「社長。お客人を連れてまいりました。」



扉の中から「入りなさい」という許可が下りて、3人はゆっくりとした足取りで、中に入っていく。
すぐ傍にはソファーがあり、キノと朔弥は社長の指示でそのソファーに腰をおろした。

机の上に積み上げられている書類に埋まれて、残念なことに社長の姿は見えない。




「はじめまして、キノ・アグウェルさん。紹介状は届いているますよ。」

「良かった、通じてなかったらどうしようかと。」

「ははは。君が聡明だということも紹介状に書かれていてね。流石、私の友人だ…信用し合っているようだね。」

「ククッ、どーも。他に何か書かれていませんでしたか?」

「何も。怪しいやつではないから安心してくれ。くらいだったかな。
…ニコラス君。悪いが、お客人にお飲物…そうだね、紅茶を2つ用意してくれないかね?」


「(この子にも?)…わかりました。」



ジュースではないのだろうか。
不思議に思いながらも、ニコラスは姿勢をただし一礼した後、社長室を去っていった。



「彼はレイチェル君と知り合いのようだね、もっとも、君とも面識はあったようだが」

「数回程度ですよ、彼女と会ったのは。」

「我々は情報を集め、売るのが仕事。しかし他の情報屋となればそれを売るのも、共有するのも難しいでしょう」

「メリット・デメリットのことを言ってんのか?残念だけど、今回はその話をしに来たんじゃない」

「なるほど。それは…君の隣に座っているお方と関係があるのかな」

「黒猫。そう呼んでください。」

「ふむ、なるほど。」



意外にも早くニコラスは社長室に戻ってきて、キノと朔弥に淹れたての紅茶を出した。
2人はニコラスにお礼をして、再び社長のいる方に目を向けた。



「で、社長さん。さっそくで悪いけど…」

「分かっている…しかし、こちらが提供するだけでは部が合わない。そちらも何か提供してくれるかな?」

「黒猫…異論は?」

「ない」



一言、朔弥が返事してお茶を手に取る。



「では、知りたいことを教えてくれるかな?小さな仕事人さん…。」


熱そうに湯気が立っているお茶を見ている朔弥は、視線を移動することなく話し出した。



「不死と言われているガンドールファミリーの細かな構成員。
その中でも、不死なのは誰なのか。そして、ルノラータとガンドールの関係について。」

「ふむ。簡潔に述べているが、結構調べているようだね」

「……」

「不死…とは、どういうことか知っているのかな?」

「辞典程度。」

「では、何故本人たちが不死なのかは…?」

「知らない、興味ない」

「なるほど」


「ちょ、ちょっと待ってください!」



突然ニコラスが社長に向かって声をあげた。

微かだが動揺している。



「何かな?ニコラス君。」

「今回の情報は…このお嬢さんだというんですか!?」




見た目10歳ほどであろう子供が大人の話にすんなり入っている。

それだけならまだしも、情報が欲しいと思われていた人物・キノは優雅にお茶を飲んでまるで交渉がない。



「ニコラス君。この方はただの"お嬢さん"とは違う。一人の女性か、それ以上だ。言葉を慎みなさい。
それと、黒猫さんのいうルノラータとガンドールの関係。これは話が長くなってしまうので、持ってこさせましょう。」



ニコラスは再び社長室の扉をあけ、そのドアの先にいる男に持ってくるように命じた。




「さて、不死者のことだが、その名の通り死なない。該当する者はガンドールファミリーの中でも3人。3兄弟、何だが。
長男のキース・ガンドール。次男のベルガ・ガンドール。そして三男のラック・ガンドール。

中でもラック・ガンドールはファミリーをまとめているし、交渉は彼が行っている。ベルガ・ガンドールは体力派であり、交渉には向いていないが…。
長男のキース・ガンドールは無口ではあるが、よく頭の回る男だ。


……あとは、お渡しする資料の方が詳しく書かれているだろう。」


「わかった。」

「で、俺達に聞きたいことは何だ?提供する物…出せるものなら出そう。」



朔弥の代わりに、今まで沈黙していたキノがお茶をテーブルに置いて話し始めた。



「今回、この情報にはあなたたちの情報を教えていただきたい。
最も、興味があるのは黒猫さん。あなたの情報だ。」

「……」

「あなたの情報は我が社、デイリー・デイズをもっても入ってこない稀な情報だ。」

「私がここに来た。それがそちらのメリット。正体不明と言われた私、黒猫の外見がわかったことが何よりの情報。」

「そして幼い。」

「……」

「黒猫は幼くて聡明。そして女性であることと…貴女は日本人である。なぜ、あなたが国を超えてまでの仕事に手を出しているのか…。」

「それが知りたいというのですか?社長殿?」

「イタリアを主に行動している彼女がなぜ、イタリアの地を離れ我々に情報を買ってでもここに来るのか。」

「…、ここにいる黒猫のファミリーが殺されましてね。イタリアの地には黒幕はいない。逃げたんですよ、国外に。
やられっぱなしではボンゴレの名が廃る。見つけたいのですよ、彼女は。どんなに時間がかかってもね。」

「このアメリカのどこかにいると…?名前や顔が分かっているのであれば、その人物の情報のみ得ればいい話。なぜ、そうしないのかな」

「名前も顔も偽造の可能性もあるからな。慎重に行く…ファミリーには内緒らしいからな」

「なるほど……。これだけ分かれば十分です。」

「……」



持ってきていたバックの中から、値の書かれていない小切手を取り出した。

それを見たキノはため息を零しながら朔弥の代わりに言葉を紡いだ。




「ここに無記入の小切手があります。社長さん、あなたの言い値をお渡しいたしましょう。」

「私は十分だ。と言ったのですが?」

「……2000。」

「わかった。では、2000$こちらからお渡しいたします。まあ、印刷代、とおもってください」



キノは持ってきていたペンで2000$と書き、テーブルに残した。

朔弥はまだ来ていない書類を待つことなく立ち上がり、その場を去ろうとする。

ニコラスは朔弥を止めようとするが、キノも立ち上がり社長に一礼した。



「それでは、書類の方も来たようですし…失礼しますね」



朔弥はドアに手をかけた瞬間、扉の前で正にドアノブを掴もうとしていた社員が素っ頓狂な顔をして立っていた。

手に持っている茶封筒を朔弥が取り、社長室を後にした。




「あー…社長さん。黒猫のこと…これ以上…必要以上に詮索しないでくださいね?潰すのは骨が折れるんで。
あと、その情報を売るのはやめていただけると光栄です。」

「わかった。この事項を渡すことなくしまっておこう。」

「よろしくー」



キノは手を振って社長室を去っていった。

ニコラスは2人の行動に冷や汗をかいている。まさかこんな子供がいたのか…。そんなことばかり、頭をめぐっていた。





社長は全てを語らずともその全景を知って笑った
(ニコラス君、引き続き情報を)
(は、はい!)


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111113

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