兄妹シリーズ
無償乃藍(狩沢)
池袋という場所は、結構面白い。
潜んでいる闇を知らずに生きている人もいれば、知ってて知らぬふりをする人もいる。
また、その当事者だっているんだよね−−…?
「あらぁ?」
ある一角にあるメイド喫茶。そこでアルバイトをしている少女は“ご主人様”がお忘れになった携帯電話を手に持ち、首を傾げた。
携帯ならば、忘れたことにすぐ気づくだろう、と思いながら握りしめる。
確か、ここに座っていた“ご主人様”は…と考えているんだろう。あたしは後ろから声をかけてあげた。
「アヤたーん、どったの?」
「妃奈ちゃん、確かここに座ってた“ご主人様”と…」
「うん。何か問題あった?」
「携帯、忘れちゃったみたいで」
「おやまあ」
クスリ、笑いながらアヤたんの手の内にある携帯を受け取る。
開けてみるとそこにはキャラクターの待ち受け。どう見ても忘れていったのはあの人だ。
「あたし、もう上がりだし届けてくるよ」
「え、ホント!?お願いね」
にっこり笑って奥へと進んでいった。
更衣室でさっさと着替える。姉が見立てただけあって良いものだ。
ブーツをはいて、店長や店員に「お先失礼しますー」と言って店を出ていく。
「コンニチハ」
たまに、予想外の人とあう。
それが、こういう感じの人。
サイモンとはちょっと違うんだよね。
「ワタシ、探シテマス、美シイ日本語。」
「へえ。じゃあ、あたしも書いていい?」
「オネガイシマス」
ササッと書いてペンを渡す。ついでだからと思って何枚かめくってみると面白いことを書いている人がいた。
“つながり”“首”“静ちゃんの殺し方”
わかっちゃうところが、ねえ。
セルティ、見つかるかなー…首。
あたしはどっちでもいい気がするんだけどね。
そして見つけちゃった。
…そう、虎の前にいるんだね?
『ありがとう』
『!…どういたしまして。』
『けっこう面白かった』
『貴方の探し物、見つかると良いですね』
「難しいんだよね、見つけるの」
ぼそっと言ったから、オネーサンには聞こえなかったみたい。首を傾げてる。
さぁてと。虎に行きますか!!
浮足立っていくと、虎の入り口前でダンス?をしている2人を見つけた。
「姉さーん!ゆまっちー!」
「あ!さっきぶりー!終わったの?」
「そ。終わったからこっちに来たの。で、ゆまっち、はい携帯!」
「うわぁ!ありがとう!!本当に焦った!それにしても今日の衣装はアレっすねー」
顎に手を当ててうーん…と上から下までじっくりと見てくる。
隣でにっこにこしている姉さんに笑いかけて。
「姉さんが見立ててくれたんだよ?」
「良いっすねー89点!!」
「え、なんで!?」
「あと12点かー」
「妹系萌えキャラにしてツンデレが入れば…いや、もっと甘くなるべき…?ここは上目づかいで…」
「ゆまっちー、もう良いからフラフラしようよー」
そして出会えた。
君に会ってみたかったんだよ。
「あ、狩沢さん、遊馬崎さん、と?」
「へー、キミが帝人くん?確かにゆまっちが言ってた感じだね。どっかに家紋とかあるの?」
「え?え?」
「潤さん、あまりからかってやらないで下さいよ」
「違う違う!妃奈って言ってよ正臣君ー」
「帝人、この人は狩沢さんの弟で潤さん」
「え、えぇ!?お、男!?」
「ちっちっち、人を見た眼で判断しちゃあいけないよ、帝人君。ああ、あたしのことは妃奈って呼んでいいから。メイド喫茶でバイトしてんの」
「行きたくなったら言ってよ。私たちと行こうー?家族割引きくし」
「うん、おいでよ。あたしでよければサービスするよ?」
本当に普通の子だね。
笑っちゃうくらいに。
ねえ、キミは“俺”を楽しませてくれるかい?
“俺”の探し物を見つけてくれるかい?
“無償の愛”を−−……
「とりあえず、よろしくね?帝人くん」
はじめまして、帝人君
はじめまして、田中太郎さん
はじめまして、我らが創設者
はじめまして、はじめまして、はじめまして、、、
無償乃藍
(ねえ静ちゃん、あたしね?帝人君気に入っちゃった)
(へえ。よかったじゃねえか)
(…でも“俺”が求めているものは絶対に手に入らない)
(……そうかよ)
(静雄はくれる?“俺”に、無償の愛を。)
END...
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