そして君はサヨナラと言った
一人の少年の過去
綱吉はここに来る前、ボンゴレの10代目だった。
いや、なるはずだった。
高校になってからすぐ、ボンゴレ9代目の元で指導を受けるための準備は進められていた矢先のこと。
綱吉のクラスに転入生が来てから彼の生活は一変した。
「諸事情で日本に来ました、溝端紫乃(ミゾバタ シノ)です。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀して笑う彼女は数日でクラスのマドンナになった。
誰にでも優しく教師にも人気が高く、良い支持を貰っている。
そんな中、綱吉はそのマドンナである溝端に告白された。
もちろん、自分は不本意ながらマフィア、しかもボスとなろうとしているのだ、彼女なんてつくっていられないし、京子がいる。
眉尻を下げて謝り、彼女はキレイに笑ってその場を去って行った。
ズキリと痛む心を押さえながら、何度も「ごめんなさい」と謝罪して帰った。
翌朝、綱吉は申し訳なさからもう一度ちゃんと溝端と話そうと思っていた。自分を思ってくれている女性は京子やクローム以外で初めて。
意気込んで教室に入ったのはいいが、昨日までと違う日常が待ち受けていた。
溝端に暴力をふるっている、という噂が流れていた。
誤解なんて誰にでもある。信じてもらおうと必死になり、何日もそれを繰り返したがそれが叶う日は来なかった。
そして、それは大きなものへと変わって行ってしまった。
『ひどいよ、ツナ君…っ』
『10代目…何でこんなひどいことするんです!』
『ツナー、お前の戦う意味って違わなかったっけか?』
『俺は、やってない!!信じてよ獄寺君!山本ぉ!!』
綱吉は悲痛の叫びをあげるが、悲しい顔をされた。
何もやっていない。そう訴えるのに、信じてもらえずに。
でも、実際見たやつがいたんだ。証拠もある。
泣いているのは、綱吉の大好きな笹川京子。
誰もが、綱吉の言葉を信じることができなかった。
転入してきた女の子、溝端紫乃(ミゾバタ シノ)は綱吉に向かって泣きながら訴える。
『なんで…なんで京子ちゃんを苛めるの?私を庇ったから?だからなの?』
獄寺達の言い分はこうだ。
溝端は転入して間もなく、綱吉に告白されて断った。それがきっかけで暴力が始まり、いつも朝になると包帯を巻き、痣を作って登校してくる。
実際現場を見ていない山本と獄寺は溝端の言うことを100%信用しなかった。とはいえ、混乱はしていた様子。
暴力をやめるように説得をしていたが犯行を認めずエスカレート。
慰めていた京子を今度は標的にして暴力をふるった。
『た、助けて…っ、綱吉君が京子ちゃんに暴力振るって…それで……っ』
『笹川はどこにいる!』
『体育館の暗い場所…』
転校してきたばかりの溝端には抽象的な言い方でしか場所を言うことができなかった。
それでも山本達はそれがどこだか分かり、走っていく。
案の定、死角となっているこの場所で京子は泥まみれで倒れていた。
山本は彼女を抱えて保健室に直行し、シャマルに手当を願った。
意識不明の彼女には痛々しい傷が所々にあり、山本達も流石に我慢の限界を超えていた。
『10代目…信じていたのに…っ』
『獄寺君、だからオレ、何も』
『実際目撃した人がいるのに貴方を信じられるわけがねえんだよ!!』
『そんな…山本…っ!!!』
『……ツナ。笹川のこと、好きじゃなかったのかよ。見損なったぜ』
『違う!!俺はやってない!!』
『なんでそう言うこと言うのよ綱吉君!!私だけならなんとか我慢できた。でも、京子ちゃんに手を出すなんて私が許さない!!』
京子は綱吉を見るたびに怯え、泣き、花の後ろに隠れていた。
彼女の表情は恐怖そのもの。演技なんかではなかった。
花は京子の前で綱吉をひと睨みすると京子の手を引いて教室を去って行った。
かつての仲間に暴行を受けた。
それを防ぐ、反抗する力があったにも関わらず。
口から出るのは否定の言葉。「何もしていない」「しんじて」
誰もそれに耳を貸そうとはしなかった。
『帰ったのか、ツナ』
『ああ…リボーン……』
『またひどくやられたな。なんで反抗しねえんだ』
『できない、よ』
泣きそうな声で笑いながら、綱吉はその場で倒れた。
リボーンの呼びかけにも応じなく、意識は闇の中に落ちて行った。
起きる様子もない綱吉に舌打ちをしてビアンキを呼んだ。自分では綱吉を運ぶなんてできない。
玄関で倒れているのを見て大慌てで呼びかける。
『部屋まで運んで、手当をしてやってくれ』
『分かったわ。リボーン、あなたはどうするの?』
『ちょっと出てくる』
『行ってらっしゃい。ママンの夕飯までには帰って来て頂戴ね』
ふ、と笑うとリボーンはその場から一瞬にして消えて行った。
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