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そして君はサヨナラと言った
暗く深い海の底に、




騒がしいのは、わかっていた。
書斎で本を読んでいた骸は、騒がしくなった廊下に舌打ちをして本を閉じる。

「六道君」そう呼ぶ声が聞こえて、眼鏡を外して部屋を出るものの、そこには声が聞こえるだけで姿が見えない。

窓の外を横目で見れば、ぐったりとしている綱吉を抱きかかえている柳生の姿。
呼吸を忘れるほどの衝撃で。

落ち着いていなかったとはいえ、あのような状態になるまで外にいたというのだろうか。

「綱吉君…っ」


窓に手を張り付けて綱吉の濡れた姿に目を見張った。
どこか顔色が悪い。
柳生の慌てぶりも少し異常だ。

高さがあるにも関わらず、窓を荒々しく開けて飛び降りる。


「綱吉君!!」
「!六道君」
「どこか怪我でも…」
「いえ、違うんです。混乱して…違うと、言いだしまして…池に…。」
「池?…それにこんなに憔悴して…」
「貴方にお願いしたいんです…綱吉君の中に潜ってほしいんです」


貴方にしかできないことだ。
そういうと、柳生は骸へ綱吉を渡した。

抱えている綱吉の体は冷えてしまい、弱弱しく眉を下げて泣いているようにも見える。
優しく抱き留めて踵を返した。


「しばらくは僕の部屋に来ないでくださいね…」
「すみません…お願いします」




頭を垂れる柳生を見てから、部屋へと急いだ。

誰も入ってこれないように鍵をしっかりと閉めて服を着替えさせるとベッドに寝かせる。
穏やかとは言い難い表情はどこか苦しげで。
濡れている髪をタオルで包み込んで額にキスをする。

どうか、許してほしい。
そう心の中で謝罪ひとつ入れて、意識下へ潜って行った。


(以前…とはいえ、もう何年も前の話ですが…あの時の情景はなさそうですね)


高校へ上り詰めたときに、彼の了承を得て意識下へ潜ったことが一度だけある。
その時は晴れ渡る青空に気持ちいい空気があった。

まるで草原にいるかのようで、心地よかった。
心が安らぐような空間だった覚えがあったにも関わらず、ここは深い闇色をした場所だ。

大抵、こういう場所は精神状態を表すものだ。
どろどろに感じる空気に骸は眉をしかめる。


おかしい。


記憶がないのであれば、こんな重々しいものにならないはずだ。
何かが原因でこのようなものになってしまったに違いがない。

考えられるのは、2つ。

記憶を取り戻したか

それとも、

ここまで追い詰める何かに遭遇したのか。


今の骸にはそれを判断することはできない。


浮いているのかわからないが、足を踏み出して辺りを見回しながら綱吉の姿を探す。
本人に会えば何かしらわかるかもしれない。
もっとも、彼が口を聞いてくれれば、の話だ。

「綱吉君…?」

声をかけてみるが、返事は一切ない。
どこにいるかもわからない。
長居するのも彼の負担だ、今の綱吉の状態からしても精々あと5分ほどしかいられないだろう。

(はて、どうしましょうかね…)

これだけ真っ暗だと先が見えているのか、本当に真っ暗で見えていないのか定かではない。
別の場所を探そう。
そう思い、踵を返した途端に何かが破裂したような光の粒。
先ほどまで足を進めていた方向だ。


「そこにいるのですか?綱吉君」


水色をした光の粒子は骸の方へと流れて、無意識に手が伸びる。
それは骸の手に触れると雪のように溶けて水となっていく。


「水……?」


光に触れている感覚もない。
水色の粒子は減ることなく…むしろ量を増して水へと変化していった。


これはどういうことなのか。
骸には理解できない出来事。

踏み出そうとした足は重くなっており、いつの間にか水が足元を浸していく。
濡れている感じもない。
それが異様で、異質で、考えが追いつかないほどのもの。


「泣いて…いるんですか?」



『笑っているように見えるのか?』
「!綱吉君、どこにいるんですか」
『いるよ、目の前に』


しかし、どこを見渡しても綱吉の姿はない。


『骸。今すぐ、ここから消えろ。』
「理由はなんです?」
『……消えてくれ』


どろどろと、水は色を変えて鈍い血の色へと変わっていった。
骸自身覚えのある色。
昔、マフィアを殲滅した時の色と同じだ。


『“俺”を探さないでくれ…お願いだから』


悲願に近いものだった。
両手で包まれたような頬の感覚に目を見開いて、口が開いてしまう。

泣いている。

今ならわかる気がした。
しかし、意識を潜っているには時間が長すぎてしまったようで。

これ以上骸がこの場所にいられるのは難しかった。


「綱吉君、教えてください…君はもう……」


『…、じゃあね』








目を覚ました骸の目には涙の跡が残っていた。
握られている手は冷たく感じ、それはきっと綱吉の体が冷えたせいだろう

頭の隅で考えてゆっくりと手を離した




「貴方を助けられなかったこと、今でも後悔していますよ…綱吉君」





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111016
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シリアスですね、すみません。
皆さま、2つの綱吉に混乱しないでしょうか…
この先、綱吉と『綱吉』という言葉が多く出てきます!
今後ともよろしくお願いします


あきゅろす。
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