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そして君はサヨナラと言った
異なる、沈む、異色




「困ったね…」
「どうする、精市」
「仁王、綱吉の様子は?」


ドア付近の壁に背中を預けて目を閉じている仁王は、ゆっくりと瞼を上げて幸村を見据える。
腕を組んで繭を寄せている中、ゆっくりと口を開いた。


「昨日、話した通り…綱吉は誰も近づけようとせん。今は…いつもの場所にいるぜよ」


それは幸村の楽園ともいえる湖のことだと、誰もが悟った。
落ち着きたいときに、一人になりたいときに行く場所。


「柳生、様子を見に行ってくれるかい?」
「ええ、構いませんが…仁王君や貴方ではなくていいのですか?」
「今の綱吉の様子を見てほしいんだ。俺や仁王だと気配ですぐに見つかってしまうからね。霧の守護者である柳生に、お願いしたいんだ」
「つまり、見つからないように…ということですね」



幸村は真剣な目をして頷いて、仁王に視線をうつした。
悔しそうな表情がにじみ出ている。
それが何に対してなのか。わからないわけではなかった。



「仁王…頼みたいことがあるんだ」
「………なんじゃ」







一方、柳生は湖への道を前に深呼吸した。
本来、幸村以外は入ることを許さない場所。

そこに入るのだ…
神経を集中させて、気配をも絶ち、一歩進めた。



湖の傍らに綱吉の姿があった。
倒れるように横たわり、湖に片手を沈めている姿に一瞬、ひやりと汗を流す。


波紋も浮かばない、ピンと張っている湖を見て、綱吉は全く手を動かしていないこととなる。
遠目からでも目を凝らせば、規則正しく体が揺れていることにほっとした。
木の上に身を顰めて、息を殺す。


ふと、体をピクリと揺らして起き上がる綱吉は湖から手を抜いてタオルで手を拭った。


「もう、無理だよ…」


いきなりしゃべりだしたかと思えば、湖に顔を覗きこませた。


「だって、怖いんだもん。」

「俺は知らない」

「こんなの、俺じゃない!」

「ねえ……俺は、誰?」

「それは、キミでしょ………?」


いったい誰と話をしているんだ。
柳生はあたりを見回すが、気配すら感じない。


「 キコエナイ 」



ばしゃん、

水が跳ねる音が聞こえ、瞬時に視線を綱吉に戻せば座っていた場所に彼の姿はなく。
湖の波紋は大きく揺れていた。


「(綱吉君…!)」



柳生は一目散に飛び出して、湖の中へと沈んでいく綱吉の名前を叫んだ。
返事が返ってこないなんてわかっていた。
軽装して湖に飛び込むことを忘れて、ただ一言…幸村に謝罪してから飛び込んだ。


深く深く沈んでいく綱吉は抵抗などなく、まるで沈むことが当たり前のよう。
柳生は必死に手を伸ばして掴むと、重たい水の中で方向転換し、水面の上を目指した。



「は、ゲホ…はぁ…、つ、なよしくん!綱吉君!」
「…っ、ゴホッ、ゴホゲホ…ッ」
「よかった…大丈夫ですか?」


ぐったりとした綱吉は柳生の言葉にかえすことすらなく。
心ここに非ずというような感じがあった。





「綱吉君!!!」




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