そして君はサヨナラと言った 空の渦 うっすらと頬をつたう涙が枕を濡らす。 闇色に近い天井に肩を震わせて、強く目を閉じる。 「どう、して…っ」 袖で乱暴に涙を拭って布団をかぶった。 こんなはずではなかった。 知りたいことは、こんなものではなかった、なのに。 「俺は、ただ、ただ……」 楽しい思い出を、無駄にしたくなかっただけなんだ。 「綱吉君、起きたんですか…?」 布団は異様な形に膨れ上がったドーム型。 ゆっくりと近づいてくる音は、布団越しでも綱吉の耳にはしっかりと届いていた。 一歩、また一歩と近づいてくる音に、安心感などなくて。 「こ、来ないで!!」 「…綱吉君、僕ですよ」 「それでも…来ないで、六道君……」 声を荒げて、布団を握りしめる力を増した。 戸惑いを見せる骸だが、もしかしたら自分だと分からないのかもしれない。 警戒されているのかもしれないと踏み、安心刺せるような声を出すが、それでも、綱吉は頑なに包まったまま。 誰にも聞こえないようなため息を吐いて、腰に手を当てて立ち止まる。 さて、どうしようか。 視線を布団から外して床へと向ける。 ふと、携帯を取り出してカシカシと操作をすると、一人の番号を表示しているところで指が止まる。 そのまま通話ボタンを押して2回鳴らしたものの、終話ボタンを押して携帯をとじた。 「綱吉君、今……雅治を呼びました。僕より安心するのでしょう?」 悲しいが、これが現実だ。 昔はよく名前を呼んでくれていたが、それも綱吉の中では消え去った記憶。 ドアへ足を向けて数歩歩いた時、ゴトン、何か鈍いものが落ちる音がした。 反射的に振り向けば、ベッドの上にあったドーム型のふくらみは消えて、ベッドの奥の隙間に落ちたのだろうと、考えさせられる。 踏み出しそうになる足をなんとかとどめて見守ると、ごそごそと布団を被ったまま、テラスに続くガラス製のドアの所へもそもそと動く。 丁度その前には立派な焦げ茶色のデスクが堂々とあり、そこに隠れてしまった。 「むっくん?」 「……気の抜けたその呼び方はやめてください」 「別にいいじゃろー」 「はぁ……」 「……で?」 「………」 首をかしげて、呼んだ理由を聞こうとするが、骸は無言のまま視線だけを綱吉の隠れているデスクへと向けた。 もちろん、仁王はそこに何があるのかわからない。 眉間に皺を寄せてむっとした顔をすれば、小さく笑われた。 「何を笑ってるぜよ」 「いえ、恭弥君に似ているもので……クフフ」 「あんな仏頂面と一緒にせんといて」 それでも笑ってしまう骸に仁王はさらに頬を膨らませて、ぷい、と顔をそむけた。 そこで気づく。 何かがおかしい、と。 仁王は自然と足が動き、ベッドのカーテンを開ければ、掛布団がなくもぬけのからとなっているベッドがあった。 触れるとまだぬくもりがある。 目を細めて骸へ視線を送れば、やはりデスクの方へ向けられていて。 ちょっぴり布団の端っこが顔をだしているのが見えてほっとした。 まさか誘拐されたのではないかと心配してしまった。 「綱吉…?」 ひょこりと顔をのぞかせて見るものの、そこには顔を真っ青にして蹲っている綱吉がいた。 ただただ怖くて 骸だってわかっているはずの手が、身体が、足が…震えている。 どうしてこんなのになってしまったのか、わからない。 「綱吉…?」 突然聞こえた声。 びくりと肩を震わせて身を縮こませた。 恐る恐る声のする方を見れば、目を丸くして綱吉を見ている仁王の顔が見えて、身を引かせた。 「ま、さ…」 「ど、どうしたんじゃ?顔が真っ青…」 両膝をついて手を伸ばしてくる手が、綱吉の何かに重なってしまい、無意識にその手を振り払った。 唖然としてしまう仁王は驚きを隠せず、綱吉を見ていると、またビクリと肩を震わせて縮こまる。 「さ、わら、ないで……っ」 「どうしたんじゃ」 「こわい、よ…」 「ここには傷つけるやつ誰もおらんぜよ」 綱吉は首を振ってさらに蹲って、仁王の言葉すら聞き入れない。 仕方なしにそこから離れて骸の所に戻る。 「どうします?」 「どうも、なあ…あれじゃあ……」 「……ええ、わかってます。しかし、」 綱吉が怯えてしまっては何もできない。 今度行われるボンゴレ就任式。 あれに出れなくなりそうだ。 「困りましたね…」 うんうんと悩んでいる2人がどれほどそこにいたのかわからない。 ただ、数時間ほどそこにいたに違いない。 日は傾き、夕日が窓から差し込んでくる。 「とりあえず、ゆっきーに相談してみるぜよ」 「僕は恭弥君に言ってみます。」 ふぅ、一息ついたところで再度机に隠れている綱吉をのぞきに行けば、布団に包まったまま眠ってしまっている姿があった。 2人は顔を見合わせて苦笑し、仁王がベッドに運んで包まっているものとは別の布団をかけた。 NEXT... 110919 |