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そして君はサヨナラと言った
引き起こされた記憶@


ぶるり、身を震わせる。
何かが呼んでいるような声に綱吉は耳をふさいだ。
嫌な予感しかしない。


「いやだ…」


目に涙を浮かべて布団に包まると微かに震えだしてしまう。
思い出したくなかったことかもしれない。これだけ体が震えるなんて自分自身、思っていなかったのかもしれない。
夢の中で出てきたもう一人の自分。

綱吉は思い出したいと請うた。
それを今更後悔しても遅いのかもしれない。


「助け…てっ」


布団から顔を出して明るい部屋を見渡すと、綺麗なカーテンも、汚れひとつない床さえもボロ屋敷に映ってしまう。
被っている布団すら埃かぶったものに見えて、思わず床に投げ捨てた。

ベッドから足を下ろすものの、腰も立たずにへたり込んでしまう。
押し寄せてくる恐怖に呼吸すら落ち着かず、胸を抑え込んだ。


「いやだ…だれか…っ」


ぐらり、横に傾いて倒れてしまう綱吉は床に転がってしまった。
生理的な涙を流して、指を動かした。
同時に脳裏を過る重い感覚に頭を抱えて叫んだ。


「いやだああぁぁああ!!!!」



屋敷中に響き渡るような悲鳴に誰しもが驚いたに違いない。
近づいてくる足音に恐怖が押し寄せて、動かない手足を無理やり動かし、這い蹲ってドアから逃げて離れていく。
瞬く間に、荒々しく開かれた扉からは数人が、綱吉の名前を呼ぶ声が聞こえたが、気にする由もなく逃げるように離れて行った。


「つ、綱吉君?」



幸村の呼びかけにすら応えることなく、逃げ回る綱吉は異常と言えよう。
触れようと手を伸ばしたが、その手を払われてしまった。

ぐるぐるとまわりだした記憶たちに混乱して、雄叫びとともに部屋の端に身を縮めて


「まるで、昔のようだな…」


柳はため息を零した。


「やめて!いやだ…いやだあああ!!!」


頭を振り、壁にすがるように手を伸ばして助けを求める。
そんな姿を見るのはとても久しぶりで、綱吉がレジェンドに来た時を思い出させた。
壁をひっかいて嫌な音が響く中、次第に壁が赤く線を引き始めて全員が慌てたのはわずかな遅れののちのこと。

一目散に動いた柳は綱吉を背から抱きかかえて、片手で目を覆い隠す。
混乱したままの綱吉は、宙にさまよう赤くなった指先を柳の腕に添え、しっかりと握りしめた。


「ぁ…っ、あぁぁぁあああ!!!!」


鎮静の炎が綱吉を包むが、落ち着く様子を見せず、柳の腕を掴んでいた手は離れて思い切り柳の腹部に肘をのめり込ませた。
か弱い綱吉とはいえ、力を込めてしまえば、流石の柳も捕まえていた手が緩む。
するりと腕の中から抜け出して、一気に駆け出した先にはドアがあり、救いを求めるように手を伸ばして頭の中に浮かんだ名前がとっさに出た。


「綱吉!」
「待つんじゃ綱吉!」

「たすけて…っ、……ぉ、むくろぉぉおお!!」


飛び出した瞬間、前方に誰かとぶつかってしまい、反動で後ろに傾いた。
慌てる声と抱きしめられた身体は、すぐに硬直してしまい、逃れようと身をよじらせる。
押して退けようと手に力を入れるが、ゆっくりと頭を撫でられてひるんだ。


「綱吉君…助けに来ましたよ」



不安そうな…しかし、どこか柔らかさを含んだ声色に綱吉は暴れるのをやめて、恐る恐る顔を向けた。
震えた身体は支えられて、綱吉は目の前にいる男の輪郭を撫でるように指を滑らせる。

すり寄るように頬を寄せて、骸のオッドアイをみる。
戸惑った瞳は揺れて、存在を確かめるように両手を伸ばして微かにほほ笑んだ。


「むく、ろ……」
「はい…ここにいますよ」


ぬるり、頬を滑る指はあまりになめらかで、不審に思った瞬間綱吉は安心したように骸の首に腕をからめて眠りについた。
骸は綱吉を落とさないよう背に腕を回して支えた後、ゆっくりと立ち上がって頬を自分の指でなぞる。

視界に移った指は赤く染まっており、動揺を隠せなかった。


「これは……?」
「綱吉がな…壁をひっかきまくったんじゃ。激しくやり過ぎたせいじゃろ、綱吉の指も処置せんとな」


部屋から出てきたブン太は青い顔で骸の背後に回った。
綱吉の指先は赤く染まっており、痛々しいにもほどがある。


「目、覚まさないうちに処理した方がいい…爪が……っ」
「…そうですか」


骸は目を伏せ、大事そうに綱吉を抱きしめると自室に向かった。
ベッドに下ろされた綱吉はそのまま横に眠ったままで、すぐさまブン太による処置が行われた。


「あれは……、」

ベッドの端に腰を下ろして、綱吉の髪を撫でる骸は先ほど綱吉が自分を呼んだことに異変を感じた。
共にいるレジェンドのもとではなく、骸に助けを求めた。
骸の知る綱吉が呼んでいた名前。
骸を見て安心感を漂わせてそのまま気絶。
それはまさに―――…


「綱吉君、だったね」





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