そして君はサヨナラと言った 雨は涙とも言えずにA 「就任式?」 「ボスになる就任式に、同盟ファミリーは必須で出なきゃいけないんだ」 「精市くんも行くの?」 「うん。そのはずなんだけどね、今回をもって…同盟ではなくなるから」 ざわり、周りが騒ぎたてた。 今まで助け合ってきたのにもかかわらず、同盟を破棄するとは正気の沙汰ではない。 本来、同盟において事を破れば破棄というものだ。 こういうケースは珍しいものに違いない。 「精市…いいのか?」 「構わない。皆に相談なしですまない…」 「だ、め……っ」 仕方ない。 皆がそう口をそろえる中、一人、か細い声が通る。 幸村の服を両手でにぎり、首を振る綱吉は今にも泣きそうな声を出して。 「初めて…俺が交わした……ど、めぃ…」 ふと、手を放して崩れるように倒れていく。 即座に動いた幸村も間に合わず、床に転がってしまった綱吉は目を閉じてしまっていて、意識を失ってしまったことを理解した。 頬に涙の跡を残して眠る綱吉の頬を指で拭い、頭をなでてやる。 「精市」 「うん、綱吉君…なのかな。」 初めて俺が交わした同盟 きちんと耳に届いた言葉。 今の綱吉にはわからない話のはず。 それが、こんな形で会えるとはおもってもいなかったはずだ。 「綱吉君。俺はね、ボンゴレだからじゃない…綱吉君だからこそ、同盟を結んだんだよ。」 「せやな……こちらとて同じ…。キミやから話に乗ったんやで?」 白石も綱吉の頭をなでると、足を踏み出した。 「千歳、金ちゃん、行くで。ほかはここで待機しぃ」 名前を呼ばれた千歳と遠山は白石の後を追い、部屋から去って行った。 静かになったところで、幸村は空いているベッドに綱吉を寝かせると、外に視線をむけた。 曇ってきた空からは嫌な感じしかしない。 「お客が来たみたいだね」 「既に柳生と赤也が向かっている」 「綱吉君がここにいるの、知っているのかな…」 「その確率は高いな」 物激しい音は一切なく、静かすぎて逆に恐ろしいものがあった。 数十分ほどだろうか…気配が3つ。 こちらに近づいてくるのが分かる。 幸村は自ら足を踏み出してドアに近づく。真田の止める言葉すら聞く耳持たずに、とびらの先へと消えて行った。 そこに立っているのは柳生と小さな女の子、そして、金髪の青年。 「お久しぶり、と言いましょうか。」 「そう、だね…あっちでお話ししよう、丁度書類も飽きてたところなんだ」 「お気づかいは大変うれしいのですが…うるさいのを下に待たせていますので…ここで言わせていただけますか?」 「うん、何かな?ユニちゃん」 「綱吉さんに、お会いしたくて失礼させていただきました。ご挨拶させてくれませんか」 「……うるさいのって、白蘭さんかな?」 「はい、本当に鬱陶しいことこの上ないのですが…綱吉さんがいいとおっしゃってくれるのであれば…の、話ですが」 一連の話は聞いている、と強い目で言われれば、幸村も折れるしかない。 だが、どこで知られたのか全く見当もつかない。 こう親しく話してはいるものの、ブラックスペルとの同盟もなにもない。もちろん、下にいるであろう白蘭のホワイトスペル同様だ。 「無理は承知です、だめと言われたらこのまま帰るつもりでいますので。」 「どうやって知られたのか分からないけど…嘘を言ってもだめそうだね」 苦笑をしてしまえば、ユニは目を閉じて頷いた。 背にある扉をノックして開くと、レジェンドの守護者とディアンテの守護者が殺気立てて睨みつけていた。 ユニは殺気に当てられながらも平然とした表情で部屋に入る前に一礼し、足を踏み入れる。 「俺が許可したんだ。柳、下にいるみんなにも通していいって伝えてくれるかい?」 「ああ」 ポケットにしまっていた携帯を取り出して短縮ボタンを押してすぐにつながる。 「通してやれ」たった一言口にしただけで、一方的に電話を切って視線を幸村へ戻す。 幸村とユニは綱吉が眠っているベッドに向かい、椅子にユニを誘導するが、首を振っていらないといい、綱吉を覗き見る。 顔色も悪く、どことなく眉間に皺が寄っているような表情に心が痛む。 「綱吉さん…っ」 「本当に記憶のままだね、綱吉クン。時間が止まったみたいに、さ」 「…白蘭、この状況で軽薄な……」 綱吉がこのような状態を目にしてもその口ぶりですか。 ユニが悲しみと怒りを孕んだ顔で振り返ってみるが、声とは裏腹に悲しげな表情がそこにあった。 「信じたく、なかったなー…ねえ、綱吉クン。僕の知ってる綱吉クン戻っておいでよ」 「白蘭」 「何もしないよ。ただね、これ、おいていくよ」 幻覚剤だというと、幸村に手渡した。 小さな小瓶に入っている光沢のある空色の粉を指差して、毒ではないとはっきりと言って。 綱吉が戻ってくる薬だと、説明した。 「荒治療だよ、最悪を考えてから使ってね」 「どういう意味だい」 「知ってるよ…綱吉クン、記憶ないんでショ。嫌なことも全部忘れて…でも、このままでいいのかな。無理した肉体はいつかツケが来るよ。」 「……」 「記憶が戻ることで綱吉クンがどう出るかわからないってコト。キミたちの前から消えるかもしれないし、耐えられなくなって死んでしまうかもしれない。そういうことさ」 よく考えて使ってね。 そう言い残して白蘭は部屋から去って行った。 それを追うようにユニも声を上げて白蘭の背を追いかける。はた、と足を止めて振り向き、深々と頭を下げると部屋から忙しなく消えて行った。 「白蘭…あれは本気でしたね?」 「冗談のつもりはないヨ?僕が今できることをしたまでだよ」 「使わないと知って…ですね」 強い目で白蘭を見据えるユニに、肩を落としてしまう。 同じ力を持つとこうもやっかいだ。なんて思っているのだろう。 「じきに目を覚ますよ、綱吉クンはね。」 「私たちは見守るまでですが…」 「僕たちは後は待てばいいかな。まずは、大きな花火に向けて準備しなきゃね」 NEXT... 110731 |