そして君はサヨナラと言った 雨は涙とも言えずに@ 「ただいま、精市、くん」 「心配したよ…無事でよかった、お帰り」 日も昇った翌日、骸が運転する車で綱吉とともにレジェンドの屋敷へ足を運んだ。 目の前で抱きしめあっている綱吉と幸村を、淡々と骸は眺めていた。 昔もこのようなことが自分にもあった…と。 『ただいま!骸』 誰にも見えないように拳を作り、平然とした表情で目の前の光景を見ていた。 帰ってきてほしい。 その願いすら、かなわないのだろうか。 「骸」 「………なんですか、雅治」 「疲れた顔をしとる…少し休みんしゃい。ここは安全じゃき」 昨日は綱吉のそばに寄り添い、一睡もせずにここへ来たのだ。 疲れていないわけがない。 しかし、今の綱吉の状態が分かってこそ、油断もできない状態だ。 目を離したくないのも事実。 それを察したのか、柳はふんわりと笑みを浮かべると骸の名を呼んだ。 「ここには俺たちもいる。」 「ええ、安心して休んでください」 「……、わかりました」 骸が疲れている。その言葉を聞いた綱吉は幸村から視線を外して、じいっと見てしまう。 そういえば、夜中に起こしてしまい、綱吉が抱き着いたのもあるが、夜通しでずっとそばにいてくれた。 目が覚めたときは骸がひざまくらをしてくれて、一番に「おはようございます」と言ってくれたことを思い出す。 「…あ、の……。」 「! はい…なんですか?」 目が合うと綱吉は肩をビクつかせて視線を泳がせた。 気まずそうに口をもごもご動かして、何を言っているのかわからない。 無意識につかんでしまっている裾に力が入っていて、皺が深まる。 「何かありましたら呼んでください。次こそすぐにいきますから」 「………ぅ、ん。おやすみなさい……」 俯きながらも小さく返事をした綱吉だが、小さな疑問に引っ掛かった。 骸は“次こそ”と言った。綱吉は夜中の事かと思いながら骸が去っていくのを待つ。 しかし、骸はなかなか足を動かすことはなかった。 「綱吉君、手、離していただいても?」 「え?…あ、ご、ごめんなさい。」 きつく握っていた裾から慌てて手を離したが、そこはすでに皺がくっきりと残ってしまった。 申し訳なさそうにその部分を見てしまう。 骸が綱吉の後頭部から視線を下げていくと、手を離したそこは皺ができており、つかんでいた手は微かに震えていた。 まるで、置いて行かないで、と言いたいかのように。 「………。一緒に、寝ますか?」 少し考えてから首を横に振って骸から一歩、二歩離れて立ち止まる。 それを名残惜しそうに見てから、先にドアで待つ仁王に続いて部屋を出て行った。 ボンゴレほどではないが、赤い絨毯が敷かれている長い廊下を歩いていると、先を歩いていた仁王が足を止めて骸のほうを向く。 視線だけ上にあげると、悲しげな表情が写っていて。 「何か」 「ボンゴレの話…聞いとるか」 「…ええ、クロームから聞いてます。就任式が、あるのでしょう」 「幸村は…行かない気じゃ。」 「!?しかし、同盟ファミリーは…」 「特別な理由なしに欠席なんてできん。」 突如口にした就任式の話。 幸村の指示だろう、綱吉の前ではできないだろうから、仁王から伝えるように言われたのかもしれない。 こんな形で、この場所で伝えるなんて思いもしなかっただろうが…。 考える素振りを見せながらも、骸は仁王を見据えて 「……、綱吉君は、いきますよ」 「なんじゃと?」 「僕と恭弥君と…一緒に行く気です。綱吉君が、言ったんですよ。すべて終わらせるために…と」 もう一人の彼が決意したことだ、骸たちがそれに応じるまで。 綱吉は大丈夫なのだろうか。仁王の心配なところはそれだけだ。 まどから見上げる空は澄んだ空色をしていて、ひどく憎らしかった。 目を細めながら、何かを考えている仁王は何も言うことなく、再び歩き出した。 NEXT... 110718 |