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そして君はサヨナラと言った
決められた就任式



イタリアの小さな屋敷のひとつの部屋で溝端紫乃は一人で蹲っていた。
高級さを漂わせるシャンデリアの電灯もつけず、大きなベランダに続いているガラスの扉には全ての光を遮断するかのように重々しいカーテンが敷かれて部屋に光が入ってきていない。
クイーンサイズのベッドに備え付けてある枕に顔を埋めてからどれくらいの時間が立っているだろうか。

部屋の外、ドア1枚を隔てた先には我らがボスの事が気になって仕方がない獄寺と山本の姿があるが、彼らもただ立っているだけではない。
何度も入室の願いを口にしてもイエス、という言葉がないから入れないのだ。


「勝手にはいるぞ」
「…リボーン?」


だからかもしれない。
彼女の部屋に入ることができるのは家庭教師のリボーンだけだ。

顔を埋めたまま溝端は口をつぐみ、リボーンにわからない様にため息を零すとゆっくりと言葉を紡いだ。



「乙女の部屋に勝手に入っちゃだめでしょ?」

「ガキに相手じゃ立つもんもたたねえよ」

「ませがき…」

「うるせえ。……なあ溝端。そんなに気を重たくするモンか」


リボーンの小さな手が溝端の足元まで来ると、膝に手を優しく添えた。
先程、9代目から直々に10代目の就任式の件で話をされた。もちろん、拒否もなく既に招待状の準備まで整っている状態。
後は溝端の返事のみだった。


「私…こわい……っ」

「………」

「わかっていたよ、ボンゴレの10代目を継ぐってこういうことだって…わかってる。でも…でもっ」

「いざ目の前にしたら、怖気づいたって言うのか?」

「恭弥君は私の事見てくれないし、骸は離れて行っちゃうし…私は……私は本当に、やっていけるのか不安で」


とてつもなく巨大な組織と威厳につぶされそう。
溝端は小さく震えあがり、更に縮こまった。


「お前は10代目を継げ。11代目を見つけ継いでもらえばお前は引退となる。それまで頑張ればいい」


正直9代目の体調もすこぶる良くない。
次代に任せたいのが9代目の心だろう…



「…わかった。早く、候補者を見つけないと…」


そう顔を上げる溝端の顔色は最悪だった。
リボーンは溝端に聞こえないように舌打ちをすると鍔で表情を隠した。


「俺は9代目に報告してくる。オメーは少し休めておけ。その顔色は流石にあいつらも心配する」

「ごめんね、リボーン……」


死んでしまいそうな笑顔で言うと、シーツに包まりだした。
リボーンはその姿を見、シーツの上からでもわかるほど微かに震えており目を細めた。

こんな弱いボンゴレなんてすぐに滅びてしまう。

内心舌打ちをして静かに部屋を出た。
扉の先には獄寺と山本が不安げな表情で待機しており、リボーンが出てくると同時に視線は向けられる。



「リボーンさん…」

「山本、獄寺。溝端は10代目を継ぐ意思を表明した。だがな、あまりにも脆い…早々に11代目を探すそうだ」

「そう…ですか」


溝端の属性は確かに大空。
しかし、元候補者であった沢田綱吉程の能力の高さは見られず、どんなに修行をしても溝端が耐えてもこえることはできない。
沢田綱吉はボンゴレに欠かせない存在だった。リボーンもわかっていたからこそ、守護者を変えてでも10代目を継がせたかった。


「過去を悔いても仕方ねえな…」

「小僧…?」

「……リボーンさん、俺は10代目をこれからも支えて行きます…」

「あたりめえだ。さっさと仕事に戻れ」



沢田綱吉が生きていると知ったらこの2人はどんな顔をするだろうか。
去っていく2人の背を見てため息を零した。
しかし、今の綱吉にボンゴレを継ぐなんて無理無謀な話だ、それこそボンゴレの歴史に終止符を打たれてしまう。

一人ぽつん、と佇んでいるリボーンは鍔で表情を隠し「ツナ…」誰にも聞こえない声で名を呼んだ。




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110712


あきゅろす。
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