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そして君はサヨナラと言った
優しい幻想


絶望したなんて言えるはずもない。
ただ、戻ってきた少年は他人にしか思えないほどで。
大きな喪失感だけが心を占めていた。


「こんなの、綱吉じゃない」


確かにその通りだ。
骸は小さくため息をついて綱吉の傍に出来立てのご飯ををお盆ごと置いておく。
自分たちに恐怖を抱いているのであれば、安心させればいい。

骸は怯える綱吉の前に腰をおろして手を差し伸べる。


「綱吉君、よく見てください」
「ひ…っ」
「僕は…僕たちは君に害を与えるために連れていたんじゃないんです」
「だ、だって…光を…柳君を傷つけたじゃないか!!」
「綱吉君…」


その強い目は、変わらないんですね。
そう心の中で呟いて手を伸ばす。


「や…っ、さ、触らないで!」

「……」


異常な怯えよう。
骸は眉間にしわを寄せて手を引っ込める。

一瞬見えた、綱吉の恐怖。それは何かに似ていて。


「綱吉君。この手が、怖いんですか?」


す、っと差し出した掌に綱吉は過剰に反応してさらに身を縮込ませた。
何がそうさせているのか。
骸はやわらかい笑顔で綱吉の名前を呼ぶと幻覚を綱吉に見せた。


「っ…せ、いち、君?」


骸を見てそう呼ぶ綱吉は安心したかのように笑みを浮かべた。
それが骸にとってどれだけ悔しかったことか…。

ゆるゆると手が伸びて幸村の服を掴み、涙を浮かべて小さく口を開ける。


「ひかる、は?柳、君は…?」

「2人なら大丈夫だよ、ブン太が見てくれているしね」

「よ、かった…」

「それよりも、綱吉君…ご飯食べて?これじゃあ倒れちゃうよ」

「で、も…」

「柳が元気になった時、綱吉君がこんなんだったら落ち込んじゃうし、ね?」



だから、食べて?
そう言う幸村に小さく頷いて幸村の隣に置いてある食事に手を伸ばした。

ゆっくりとはいえ、食事を口にしてくれるだけましだと、思う。
容易に折れそうな細い手足。
食べてないのかと思わせるほどの白さ。

成長していない身体。

なんで。なんでなんでなんでなんで…なんで。
それだけが脳を占める。


「精市君…もう、いらない」

「……え?」

「ごちそうさま」


首を傾げながら目を向ける綱吉。さらに目をうつしてみても、2、3口しか食べてないように思える。
驚きを隠せない骸は何を言えばいいのかわからなくなってしまい。


「はい」


返事しか、言えなかった。
ふんわり笑みを浮かべて目を擦る綱吉にハッとしたのか、手をひいて自分にもたれさせる。
手袋を見られないようにはずして、綱吉の後ろから手を握らせた。



「眠いの?寝て良いよ」

「う、ん」



安心する場所で、一番無防備な時に君の中に入らせてほしい…。
心の中で呟くと、骸も目を閉じた。




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110214


あきゅろす。
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