そして君はサヨナラと言った
手の中
「綱吉、そろそろ部屋にもどろう。」
俺の言葉に財前は手を止めて一息入れると静かにソレを閉じ、遊んでいる綱吉と遠山はピタリと手を止めた。
両手いっぱいの花をじいっと見てから小さく頷き、ゆっくりと立ち上がる。
「いっぱい摘んだな」
「これ、精市君にあげるんだ」
喜んでくれる、かな。
と控えめな声色で花を見つめる。
「ああ、きっと喜んでくれるさ」
「つなー!わいもこれ、白石にやるでー!」
にこにこと笑みを浮かべている遠山の手の内には、綺麗とはいえないが不揃いな花が束ねられている。
綱吉は大事そうに花束を両手で掴んでゆっくりと立ち上がる。
柳の方を見ると、今さっきまで並んでいた財前の姿がない。
首を傾げてみれば少し離れたところで声が聞こえて不思議とそちらに足を動かした。
こちらに背を向けている彼に声をかけようと手を伸ばす。
「ひか…」
名前を最後まで呼ぶことなく、引っ張られて後ろに倒れる。
綱吉はわけがわからずに混乱したまま花束を抱えていて。
後ろから抱きしめている柳が一息ついた。
「話し中だ、先に中、入っていよう」
「う、うん…」
邪魔してはいけない。
そう言いたいのだろう。柳に手をひかれてそそくさと歩き出す綱吉は、隠れるように進んでいることに気付いていない。
緊張からかもしれない、少し柳の手は汗をかいている。
なんでかわからないまま財前が気になって振り向けば真っ暗が目の前に立っていて。
「やあ」
そう妖艶に笑む口と、視界の隅で倒れている財前に目を丸くして唇を震わせる。
ピクリとも動かない彼に動揺を隠せず手を伸ばした。
「ひ、ひか、る…君」
「どこを、見ているんだい」
伸ばした手を目の前の男、雲雀に掴まれて強めに握られる。
低い声に優しさがなく、恐怖を感じながら顔を見れば鋭い目をさらに鋭くさせた。
怖い。
そんな事ばかりが脳内を占めて一歩も動けず。
「何の用だ、雲雀。」
「綱吉を迎えに来ただけだよ。君に用はない」
綱吉は、目の前で起こっていることが理解できずに呆然としているしかなかった。
スローモーションに感じる位、ゆっくりと倒れていく柳に悲鳴すら、声すらあげることができなくて、口を開けて涙を流す。
「や、なぎ…君っ」
「フン、口ほどにもないね」
へたり、地面に力なく座り込む綱吉を雲雀は抱きあげて歩き出す。
おとなしくしていた綱吉も、状況を把握したのかジタバタと手足を動かして雲雀の腕の中から逃げようと試みた。
「い、いやだ…っ、柳、君!柳君!!」
「おとなしくしなよ、綱吉」
「柳君が…光が…っ!おろして、放して!!」
「はあ…これ以上暴れるならかみ殺すよ」
って、言っても…今の君は通じないか。
内心そう判断しながらも綱吉を攻撃することも、放すこともしない。
ただ、泣きわめかれるのもウザイ。
そう思った雲雀は首にストン、手刀を落として気絶させ、今度は横に抱き直して額にキスひとつ落とした。
「おかえり、綱吉」
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