そして君はサヨナラと言った
混濁
〜柳Side〜
「綱吉」
「………誰、なんだろう…」
綱吉を抱えて庭に下りてきたのは良いんだが…先程から様子がおかしい。
何に迷っているんだろうか…。いや、抱え込んでいる、だな。
俺の服を掴んで、力を込めている。
綱吉が頭を抱えるようなことは…一つしかないはずだ。
「先程の男か?」
「あ…六道君、だっけ?違う…もっと、違う何か……」
「………」
六道骸のことではないとすれば…なんなんだ?
綱吉の記憶にはリボーンと会ったことも忘れてしまっているはず。ならば、リボーンの事を言っている確率は低いだろう。
今までの綱吉の行動を見ていてクローム髑髏…というわけではなさそうだ。
「何か、とは…人か?」
「ん、よく…わからないんだ。」
あいまいな回答では悩んでいるものがわからない。
綱吉は、何でそんなに考えているんだ…?今まで何度かこういう事態になったことはある。
しかし、それは俺達にもわかるような事だった。だが、今は違うようだ。
一息ついてから、後ろを振り向く。
この場所はあの部屋からちょうど見える場所だったな。
弦一郎が窓辺からこちらを見ている。
何か部屋で変わったことがあっただろうか…
それとも、綱吉が気になるのか?
「あの…蓮二くん、おりる」
「…ああ」
横に抱きあげていた綱吉を木陰まで移動し、ゆっくりとおろしてやる。
木の幹に寄りかかる綱吉は深呼吸一つすると、ぼんやり宙を見上げる。
一見、落ち着いているようにも見えるが…上の空な綱吉はどこを見ているのかわからない。
俺が綱吉の視線を追ってみるものの、そこには覆い茂っている木の葉が揺れ動いている位だ。
念の為、耳を澄まし周りに目を配らせてみるが、何か気配を感じるわけでもないし、何かあるわけでもない。
「ねえ、蓮二くん…」
「!…どうかしたのか?」
「笑ってる…」
何を言っている?
笑っている人など…
不審に思った。綱吉がいきなり何を言い出すかと…。
眉を寄せてしまいそうになったが、なんとか留めて綱吉の顔を覗く。
顔色が、悪い…
微かに震えているようだ。
落ち着かせる為にも、そっと背を撫でてやる。
「……誰が?」
「わ、わかんない」
頭を抱え出して、その場にうずくまる。
隙間から見える綱吉の顔色はますます悪くなる一方で、焦りを感じた。
このまままではまずい。
そう思い、すぐに綱吉の傍にしゃがんだ。
頭を撫でようとし、柔らかい綱吉の髪に触れる。
「落ち着け、」
「い、いやだ!触らないで…っ」
「綱吉」
「俺は、何もしてない!してないんだ!」
「知ってる」
「何もしてないのに…!」
「ああ、わかっている」
異常だ…。
綱吉、お前は今…何に怯えている?
昔のことか?
俺は抵抗する綱吉を抱きしめて背中を優しくさする。
「い、嫌だ!打たないで!」
「何もしないさ。綱吉、俺を見ろ」
「何もしてない、何もしてない…嘘じゃない…っ」
相当混乱しているな…
今の綱吉に異例なものをみせられないか…
それが例え…自分にもあるはずの、死ぬ気の炎でも。
見えないように胸に顔を押し付けさせたまま、水色の炎を指輪にともして綱吉の後頭部にあてる。
本当は額に当てさせるのが一番良いんだがな…。
「俺は……何、も……」
微かに震えている綱吉の身体をそっと包み込む。
ぼそぼそと呟いているようだが、俺の耳に届くことはない。
さて…どうしようか。
この状態の綱吉を動かすのはよくない。
無論、話を聞くこともできない。
「綱吉君…?」
ピクッ
…骸、か。
タイミングがいいな。いや、悪いか?
「…寝ているんだが、何か用か?」
「いえ。もう僕は行きますので、一言言ってから・と思いまして。」
「今しがた、寝たばかりだ。不安定でもあるしな、起こしたくないんだが」
「ええ、構いませんよ。」
骸は綱吉の頭を優しく撫でると「Arrivederch」と囁き、霧となって消えた。
NEXT...
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