そして君はサヨナラと言った
静かな足音B
〜仁王視点〜
目を覚ました綱吉の異変に幸村が気付いたようじゃな。
何かが違う。
落ち着きすぎてしまっている綱吉の行動に、目を疑ったが骸の差し伸べた手を見てゆっくりと視線が動き、眉間にしわが寄った。
ああ、違う…
「触るな、裏切り者」
低い声。
まるで綱吉ではないように聞こえる。
そんな中、懐かしい感じがした。
綱吉じゃて、思った。
昔の綱吉とも違う。けど、いつも居る綱吉とも違う。なのに、懐かしい感じがしたのは確かじゃ。
綱吉に声をかけることが許されるような感じがせんかった。
差し伸べられた手を、綱吉はあからさまに嫌そうな顔をして骸の手を払うと睨みつける。
裏切り者…て、記憶が戻ったんか?って思うたけど、違う。
そう。
何かが、違うんじゃ。
赤也の手助けをかりながら億劫そうに身体を起こし、片手で顔を覆う。指の隙間からのぞく綱吉の目はやはり鋭く、骸に殺意を持っている。
後ろにクロームの姿が見えたのか視線を移し、一回り見渡して喉で笑った。
「いまさら何の用だ、ボンゴレでも捨てて来たのか?」
「ええ。貴方の…いえ、綱吉君の居ないボンゴレなど興味ありませんから」
「抜けたのか、ボンゴレを。…馬鹿な奴だ、居場所を自ら捨ててくるとはな。復讐者の檻の中に戻りたくなったのか?」
「ボンゴレも、檻の中も望んでいませんよ。僕の居場所は綱吉君が与えてくれたのですから」
「滑稽だな。このまま追われ続け居場所を探し、さまよっていればいいさ。…今更謝った所で許すほど甘くないんだよ、さっさと消えろ」
「僕は綱吉君以外の言葉はうけいれませんよ」
骸の言葉にあざ笑うかのような顔でフン、笑ったと思うと、いきなり横に傾いた。
赤也がそれを何とか留めたが、また眠いってしまっただけのようで、ホッと一息ついた。
幸村は顎に手を置いて考える素振りを見せるが、何も言うことなく綱吉に視線を向けただけ。
力なく赤也に寄りかかっている綱吉はすぐに目を覚ました。
また、あの綱吉が出てくるのかと思いきや、先程とは違い、不安を抱えている儚い綱吉がそこに居って。
状況が把握できていないのか、忙しく綱吉の目がキョロキョロ動いている。
それをみて安堵したのか、俺は綱吉の前まで行くと屈んで顔色をうかがう。どうやら大丈夫そうだ。
「目が覚めたんか?綱吉」
「あ、マサ……おはよう」
「ん、おはようさん」
「…ツナ」
「あ、光…どうしたの、焦って。…!あの、精市君…パーティは?行かないの?」
おかしい。
パーティーは行ったはずじゃし、忘れるなんて今までなかったじゃろ。
幸村を横目で見てみるが、顔色に大した変化がない。
内心は焦っているじゃろうな。
「パーティーは、行かないよ」
「どうして?」
「中止になったぜよ」
終わった。とか、途中で帰ってきた。とか言った日には混乱するかもしれんな。
自分が寝ているという考えから悪い方向へ考えかねない。
それに、今の綱吉の様子からみるとはパーティーに行ったという記憶がないのかもしれん。
会場に戻らないのか。という意味かもしれんからの。
ホッとしている綱吉は、初めて見る人物を発見して肩を震わせて赤也にしがみついた。
赤也、さりげなく嬉しそうな顔をしとるな…。
綱吉の視線の先には骸。そしてクローム。
「だ、だれ……?」
知らないやつが近くにいた、というのもあるじゃろうけど、相当な怯えようで赤也の服をしっかりと握っている。
骸はわかっていたからかの…多少の動揺は見えたが悲しげに眉をさげて、クロームはひどく落ち込んだ表情で口を噤んだ。
「ぼ、ぼす…?」
「精市君…の、知り合い?」
ゆっくりと幸村に視線を向けて問う。
さて、どうこたえるか。
クロームも骸も、綱吉の守護者。
ああ、元、じゃな。
幸村の知り合いといえばウソじゃあない。
それでも元はと言えば綱吉の仲間で守護者じゃけん、直接なものではない。
黙って俺たちは幸村を見た。
「何度か、あっている位だけどね。綱吉に会いたかったそうだよ」
「俺、に?……えっと、はじめまして…沢田綱吉です」
少し首を傾げて言えば、表情も変えないで言いのけて赤也の袖を引っ張った。
「赤也、ごめん…ちょっと、出たい」
はっとしたように赤也が立ち上がって綱吉の手を引いてやる。
けれども、地面に足がついた途端に身体を支えきれずに崩れ落ちていく。
近くに居た遠山が手を貸して寄りかかっている状態。
これじゃあな……。
ふと、参謀が足を動かして綱吉の前まで行くと少し身を屈めて顔をのぞかせる。
「綱吉。俺と行くか?」
「蓮二くん…」
小さくうなづいて、綱吉は参謀に横に抱きあげられて部屋を出て行った。
綱吉のいない部屋は静か過ぎて、骸は手に力を込めて考え込んでいた。
どうしてあんな姿に変わってしまった。
誰が綱吉をあんなにしてしまった。
何故、手を差し伸べなかった。
後悔だけが頭の中をしめていく。
「言ったじゃろ、骸。あれが、綱吉なり」
「………」
「骸、一応言っておくけどね?さっきの、綱吉とはまた違う別の綱吉…あれを見たのは、俺を含めてここの皆は初めてだよ」
「……そう、ですか。」
六道骸を知り、ボンゴレを捨てさまよう…そのような発言ができるのは、記憶があるとしか思えない。
けれど、綱吉が嘘を言っているようにも感じない。
綱吉は綱吉であり、また綱吉ではない人格が存在しているとしか思えない。
「骸。お前はこれからどうするんじゃ?」
「ボンゴレは捨てましたし、関係ありません。僕は、綱吉君が戻って来れる場所を作って待つだけですよ」
「言っておくけど、記憶が戻っても綱吉を渡す気はないよ」
「待ちぃ。綱吉が居りたい場所は綱吉が決めればええことや。自分らが決めることちゃうで」
今まで沈黙していた白石がゆっくりと口を開いて2人の話の間に入る。
鋭い目つきでいる白石に双方とも口を閉ざした。
幸村の難しい顔を横目で覗く真田は内心ため息を零し、隣の窓から庭を見降ろした。
そこには部屋を出て行って散歩をしている柳と抱きかかえられている綱吉。
こちらに背を向けているのもあって、ただ立っているようにしか見えないが…。
ふと、柳が振り向いて真田と目があう。
何も言わずにこっちを見ていた柳が何を言いたいのか、それとも何も考えずに見ているだけなのか。
柳からは何も思わずに見ているとは思えないが、そこまで気が回らない真田はただ見下ろすだけだ。
再び部屋に視線を戻し、ピリピリした空気を纏わせる部屋で、骸は大きなため息を零す。
「僕は、一旦失礼します。綱吉君に挨拶してからお暇しますね。」
NEXT...
100808
あとがきは日記にて
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